表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
544/613

5-29-2.何を知っているのか【陣野卓磨】

「あ、あの……」


「ほら、春香。聞きたいなら春香から聞かないと。私は見てないんだから……」


 どもる本忠に、それを困り顔で見る廣政。二人の様子を見るに、どうも良い話ではなさそうだ。

 俺と影姫は二人に呼び出されて、今は校舎を出て外の人気のない場所にいる。

 そんな場所に連れてこられたのだ。他の人間に聞かれたくない話なのだろう。


「う、うん」


 本忠が意を決したように口を開いた。


「先々週の金曜日の事なんだけど、陣野君と影姫さん、リサイクルショップに行ってたよね」


 その言葉を聞いた瞬間、何を聞きたいのかがパッと頭に浮かんできた。

 まさか、あの時見られていたのか。聞いてくるって事は俺が記憶を見て蹲ってくるなんて事じゃないだろう。

 恐らく、出現していた伊刈についてではないだろうか。まさか、誰かに見られてしまっているとは思っていなかった。


 ……いや、まだそうと決まった訳ではない。早とちりはよくない。此方から何か言って墓穴を掘るような事は避けるべきだ。質問の内容を最後まで聞くまでは余計な事は考えないようにしなければ。


「行っていたな。リサイクルショップ葬間だろう。何かあったのか?」


 頭の中で考えを巡らせて答える事が出来ずにモゴモゴしている俺を見かねてか、影姫が二人に返事を返した。


「そこでさ、あの……もう一人いたじゃん。あれ、誰かなと思って」


 もう一人……。

 やはり見られていたのか。誤魔化すしかないか。しかし、どうやって誤魔化せば。


「桐生さんの事か?」


「ううん、桐生さんは……外の倉庫の方でバイトの人と一緒にいるの見たけど、そっちじゃなくて、店内で……新規入荷の棚の前でさ」


 影姫が機転を利かせて少し逸らそうとしてくれたものの、それも無駄に終わる。あの棚の前でもう一人と言えば伊刈しかいない。なんと言えばいいのだろうか。伊刈の幽霊が隣にいましたなんて言った所で馬鹿にされるだけかもしれない。

 第一、何で二人はそんな事を俺達に聞いて来るんだ。二人は去年、俺や伊刈とは違うクラスだったし、伊刈と仲がよかったとか虐めに関与していただとか、そう言う話も聞いた事がない。伊刈について何か聞いてくるという理由が分からない。


「いたな。伊刈だ。それがどうした」


 影姫はもう、隠そうともせずに即答した。

 無駄に隠して不信感を向けられるよりはいいと思ったのだろうか。影姫の考えている事がよく分からない。


 その答えを聞いて驚の表情を隠せない二人。


「やっぱり伊刈さん……伊刈さん、生きてるの? それとも、姉妹とか親戚とか?」


「いや、本人だが死んでいる」


 本忠の質問に対しての影姫の答え。

 影姫は真面目な顔をしてそんな事を言うものだから、二人の顔に戸惑いが現れ、言葉に詰まっている。そんな様子を見て影姫はこちらを向き口を開いた。


「卓磨、見せてやれ。伊刈のスマホは持ってきてるんだろう」


 突然の提案に俺も戸惑ってしまう。何も知らない無関係な人間に、月紅石の能力をそう簡単に見せていいものなのかと。普通こういうのって隠す物じゃないのか。


「い、いや影姫。そういうのってさ……っ」


「卓磨、この二人、恐らく伊刈の死について何か知っているぞ。なら、それは伊刈自身も知っておくべき事だろう。折角話せる状態にあるんだ、聞かせてやれ」


 影姫のその言葉に、本忠が僅かに後ずさる。図星なのだろうか。

 しかし、伊刈の死についてとは一体なんなのだろうか。


「卓磨、早くし……」


「い、いや、違……私は……。生きてるとか死んでるとか、からかうならもういいから……っ。やっぱりやめとけばよかった。恋、行こ」


 影姫の言葉に戸惑いと焦りを隠せない本忠は、心配そうな表情を見せる廣政の手を引き、俺達の前を立ち去ろうとする。それを無言で見つめる影姫。俺はどうするべきなのだろうか。


「ま、待って! からかってない、影姫はからかってないんだっ」


 考えは纏まらなかったが、引き止めてしまった。喫茶店で見たグラスの記憶の事もある。今更伊刈や鴫野のの記憶を何回も見せられているという事は〝何か〟があるということだ。〝アイツ〟の存在も期になる。

 この二人が何かを知っているのなら、伊刈が自殺をするに至るまでの経緯や真相も突き止める必要があると感じたのだ。


 立ち止まり、不信感を露わにした顔だけをこちらに向ける本忠。

 俺は、それを確認すると、鞄から伊刈のスマホを取り出して月紅石に意識を集中した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ