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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-29-1.冷たい返事【陣野卓磨】

 放課後、クラスの人間は皆、それぞれの目的の場所へ向かう為に教室を出て行った。教室にはもう、俺と影姫を含めて数名しか残っていない。

 今日は、昨日あった出来事もあり一日沈んだ気分であった。隣の席に座っている霙月も、時折心配そうにこちらを見ていたが、何かを察したのか必要以上に声はかけてこなかった。


 全身がだるく、なかなか動こうという気が起きてこない。


「卓磨、何をしている。今日は部活へ行くのか?」


 そんな俺を見かねてか、影姫が帰り支度を終えてこちらに近寄ってきた。


「そんな気分じゃないよ。それに部活なんて行ってる場合じゃないってのは影姫もわかってんだろ……」


 視線を向けることもなく素っ気無い返事をする俺に対して、影姫は呆れたように溜息を付く。


「あのな、卓磨……。昨日卓磨が帰って来てから、千太郎と一緒に中頭なかがみにある程度の話は聞いたが、自分を責めるような事じゃないだろう。それは、被害者を出してしまったことは残念だが、タイミングが悪かったのだ。それに、因果応報だろう。それだけの事をあの女はやっていたのだから」


「影姫、お前ってってホント冷たいよな……。アイツだって少しでも罪を償おうとして頑張ろうって、その矢先だったんだぞ……。虐めを擁護する訳じゃないけど、あんな最後ってあんまりじゃないか」


「考え方はそれぞれだから卓磨のその意見を否定するつもりはないが、私は微塵の同情もできんな」


「言ってさ、影姫が付いて来てくれていれば助かったのかもなってのも……」


 そう言いつつ影姫の方をちらっとみると、明らかに少し機嫌が悪くなったのが見て取れた。


「私は何を積まれてもあの女と共に外出して楽しもうなんて気はさらさらない。例えあの女が屍霊に襲われるかもしれないと分かっていたとしてもだ。そんなありえない、もしもの話をした所で時間の無駄だ」


「……」


 影姫のその冷たい言葉に、俺は言葉を失ってしまった。

 影姫にとって人の命とはその程度のものなのだろうか。

 そんな固まってしまっている俺を見て影姫は一つ溜息をついた。


「卓磨はお人好し過ぎるんだ。仮に私がその場にいたとしても、救えたという保障はないだろう。目の前で襲われでもしていたら、そりゃ私だって助けはしようとするかもしれないが、襲ってくるタイミングってものがある。天正寺を殺した屍霊が一人の時を狙ってくる奴なのだとしたら尚更だ」


 そこまで話をしていて思い出した事があった。天正寺との外出時に見たグラスの記憶の話だ。まだ影姫には話をしていない。


「そうか……でもさ、伊刈の虐め事件ってさ、もしかしてな……」


 そこまで言いかけた時、教室に残っていた二人の生徒がこちらに近寄ってきた。


「あ、あの……陣野君、影姫さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」


 声をかけてきたのはクラスメイトの本忠春香ほんちゅうはるかであった。横に立っているのは、本忠と仲のいい廣政恋ひろまされん。ウチのクラスの学級委員長だ。

 二人とも、表情は暗く、神妙な顔つきをしている。

 そんな二人の様子に少しの不安を覚える。俺だけならまだしも、俺と影姫に聞きたい事があるという事だったからだ。二人に聞きたい事があると言えば、思い当たるのは屍霊に関してと言う事しか思い浮かんでこない。

 そのくらい今の俺はメリーさんや隙間男の事で頭がいっぱいになっている。


「な、なに……? 聞きたい事って」


 返事する俺とは違い、影姫はただ二人を見つめているだけであった。

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