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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-15-1.奪われる座席【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/14

「で、あるからしてこの年にこの国で起きたこの事件では多数の死傷者が……」


 世界史の授業。この教師の言葉から、インターネットでたまたま見かけた有名な画像が頭に浮かんだ。戦車に立ちふさがる一人の人の写真だ。

 俺が好きな『検索をしてはいけないワード』に含まれていて、チラッと見ただけで詳しく調べていないため、その写真のその後の話は知らないが、あの場面だけは頭にこびりつくように残っている。

 地球に住む人間として知っておくべき確固たる事実なのかもしれないが、俺は単に世界史に興味がない。


 キーンーコンカーンコーン……


 そんな興味のない話をぼんやりと聞いていると、世界史の教師の言葉を遮るように、四時限目終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた。

 眠気を誘う世界史の教師の授業も、ようやく終わりを迎えた。


「あー、次の授業は今の続きからね」


 世界史の教師のその言葉の後に、起立・礼・着席の号令が続き、教師がのそのそと教室を出て行った。

 午前の授業が終了した。まだ午後に二時間残っているが、今は昼食の時間。俺が学園生活で唯一楽しみにしていると言っても過言ではない時間だ。


 鞄を開け、机の上に弁当を出す。今日の弁当は燕が作ったものだ。普段は祖父が作っているため、俺にはやや物足りない薄味のメニューが多いが、燕はそれを理解してくれているらしい。このぎっしりと詰まっていると思われる重量感からは、ガッツリとした内容が期待できる。


 願わくば、から揚げを求む。冷凍食品でも構わない、から揚げを!

 と、弁当箱の蓋を開けようとしたその瞬間だった。


「ちょっと陣野くーん、席譲りなさいよー」


 突然かけられた声にビクッと体を震わせ、横を見ると、ふてぶてしい態度で冷笑を浮かべながらこちらを見下ろす七瀬の姿が目に入った。


「へ?」


「へ? じゃないわよ! 私達、霙月みっちょの席周りで食べるから、椅子と机譲りなさいっつってんの!」


 強引な性格だ。俺の至福の時間を邪魔するとは!

 しかし、辺りを見回すと、霙月みつきの周囲には七瀬の他に兵藤、影姫、桐生が集まっていた。


「ほーら、さっさとどく! 千登勢ちーちゃんと影っちもこっち来て貰ってんだから空気読みなさぁい!」


 「影っち」とは、なんとも似合わないあだ名がつけられたものだ。そう言いながら、兵藤も威圧するように絡んできた。

 くっ、一人では対抗できないのか?


「いやいや、お前らの席、あっちの方に固まってんじゃん! あっちで食えばいいじゃん!?」


 実際、影姫が御厨みくりやの席を使っているため、出席番号順のこの面々の席は後ろの方にまとまっている。霙月と桐生がそちらに行けば済む話だ。

 霙月と桐生は申し訳なさそうにこちらを見ているが、影姫に至っては顎で「さっさと行け」とばかりに指図してくる。


 影姫の手には弁当箱。このヤロウ……昼で帰るんじゃなかったのかよ。


「燕が弁当を作ってくれたのだ。折角だから食べて帰るのが礼儀というものだろう」


 影姫が俺の視線に気づき、一言言い放った。


「いや、だからってなぜ俺が席を……」


「あぁん? だってさー、あっちはなんか変なオーラ放ってる奴いるんだもん。目に入るだけで暑苦しいったらありゃしない」


 七瀬が面倒くさそうな視線をそちらに向ける。その視線の先には、俺の方を見ながら「こっち来んな」オーラをムンムンと放ち、飯を貪り食う二階堂と三島がいた。

 女五人に囲まれて攻め立てられるこの状況、またあいつらが不要な勘違いをしてしまうのではないか……?


「新学年から、俺の日常に平穏という文字は無いのか……」


 女子に必要以上に絡まれ、これ以上あの二人に誤解されたくはない。仕方なく、俺は諦めて席を明け渡すことにした。


「そうそう、そうやって素直にネ。世間を生き抜いていくには強いものには巻かれろってね」


「ほらほら、時間は限られてるんだからちゃっちゃと動く!」


 七瀬と兵藤が、席を立った俺を見て満足したかのように頷いている。なんという状況だろう。女子から話しかけられるのは本来嬉しいはずなのに、昨日といい今日といい、嬉しい出来事は一つもない。

 お、俺はこいつらからしたら弱者なのか……。


「ごめんね~。この埋め合わせはするから」


 霙月が手を合わせて謝ってきた。埋め合わせって何だ。何でもしてくれるのか?


 しかし、一度席を明け渡したら最後、今年はずっと席を取られるのだろうな……。そう思うとげんなりしてきた。

 せめて二階堂と三島の誤解が解ければあっちで一緒に食べれば済む話だが、現在の二階堂と三島は俺に対して邪悪なオーラを放っている。どこか他に食べる場所を探すしかない。


 どこか……どこか……。


 少し考え、教室を見回すが、購買組も戻ってきて、静かに食べられそうな場所はもはやなかった。


 仕方がない。どこか別の場所へ行くか……。


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