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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-24-5.理事長の力【陣野卓磨】

 車の中。隣には理事長がいる。

 俺は理事長が乗ってきていた車に乗せてもらい、とりあえず一端家に帰る事になった。

 車はまだ発進していない。


 公園の方を見ると、新たに応援に来た警察官や救急隊員も含めて大騒ぎになっていた。案の定、七瀬刑事は理事長が戦った時の姿は一つも覚えておらず、屍霊がいなくなった事に関して疑問を感じていたようだ。


 そして、あんな事があったというのに、また公園の周りには野次馬が集まり始めていた。好奇心とは恐ろしいものだ。また何かが起こるかもしれないと言う可能性を頭から消し去ってしまうのかもしれない。俺と理事長はそんな野次馬達の衆人環視に晒されながら公園の敷地内から出る事となったのだ。

 

「フー……フー……フー……」


 いつもと違う理事長の荒い息が気になり、理事長の方を見る。

 顔色は元々白いせいかよく分からなかったが、表情は少し辛そうに見える。先程まで戦邊と会話していた時の気丈な振る舞いはどこへやらと言った感じだ。

 運転席にいる森之宮も、その姿が心配なのかミラー越しに理事長の顔色を伺っていた。


「大丈夫ですか……?」


「ええ、大分と落ち着いたから、もう大丈夫よ。森之宮さん、車を出して頂戴」


 森之宮は理事長のその言葉を聞くと、「かしこまりました」と一言言い、車を発進させた。


「駄目ね……たったの魔法一発と能力一振りでこの有様なんて。日に日に自分の力が落ちていっているのは分かっていたけど、ここまでとは……」


 そう言う理事長の顔はとても残念そうだった。

 しかし、そんな呟きの中に気になる単語が出てきた。


「ま、魔法……?」


「そう、魔法。私が元いた世界では普通に存在した技術だったけど……こちらの世界では駄目ね。特に攻撃魔法は魔力の根源となる物質や存在が殆どないから……影姫からは私について聞いてなかったかしら?」


「いえ、影姫は他人の事に関してはあまり話してくれませんでしたので……理事長についてもあまり……」


「口が堅いのね、あの子も。私はペラペラと陣野君に喋ったと言うのに」


 理事長はそう言うと、どこか少し嬉しそうに微笑を浮かべた。


「陣野君、私が攻撃に移った時、そしてそれを見た時。私が戦えば事はすぐに終わるんじゃないかと思ったでしょう」


 正直思った。見た所影姫よりも動きが早く、その威力も段違いに感じた。あれ程までに戦えるのに、なぜ今まで屍霊に関しての事件に手を出さなかったのかと疑問に感じていた。


「はい……」


 しかし、車に乗ってからの理事長の姿を見て、なんとなくその理由が分かった気がした。

 以前、理事長が俺に月紅石の能力を見せてくれた時も、自分のそれを見て落胆していたのも覚えている。


「結果は見ての通りよ。駄目なの。厄災にかけられた呪いのせいで殆ど力が押さえ込まれている。さっきはあなたを守る為に何とか少ない力を振り絞ったけど、戦いが長く続けばやられていたわ。あんな雑魚すら始末できないなんて、情けないにも程があるけどね」


 こちらを見ることもなく悔しそうに苦笑を浮かべる理事長。

 アレが雑魚……。この人は今までどんな敵と戦ってきたのだろうか。しかし、その言葉を聞いて俺は自分の力の無さを思い出し、気分が一気に落ち込んでしまった。


「理事長、俺……」


「陣野君、君の言いたい事はわかるわ。でも、焦っては駄目よ。焦れば必要な事を見失う事も多いから。まだあなたは経験も浅いし、焦る必要なんてない。あなたは影姫が選んだ契約者なの。もっと自信を持って」


「でも理事長、俺、しょっちゅう感じるんです。自分には無理なんじゃないかと……」


 期待には添いたいが、添えれる気がしない。


「ふぅ……。そう思うなら諦めなさい。影姫を折って或谷にでも引き渡せばいい。幸い、影姫も或谷も娘には気を許しているようだし、そういう選択肢もなきにしもあらずよ。私は前向きな相談なら乗ってもいいと思っているけど、弱音を聞いて慰めてあげるほど優しくはないわ。戦意を失った戦士ほど役に立たない存在はないと思っているし」


 理事長はそう言い、俺から視線を外し反対側の窓の外を眺めている。


 影姫を折る……。影姫が家からいなくなるという事。燕の顔が頭に浮かんだ。〝姉〟ができるという事に嬉しそうな顔をした燕の顔が。

 勿論頭の中に過ぎったのは、そんな燕が悲しむ姿だけではない。影姫と過ごしたこの数ヶ月間の生活。それがもう俺の日常となってしまっている。

 ここで理事長の言う通りに、俺には自身がないと言う事を影姫に伝えて了解を得て刀を折るなんて事が出来るのだろうか。


「考えておきます……」


 答えは纏まらなかった。だが、俺が口にした返事はあまりいいものではないというのは自分でも分かる。

 そう言う俺の答えに、理事長からは落胆した様子が感じられた。


 俺も理事長も、それ以上は何も喋らなかった。

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