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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-24-4.理事長と戦邊夫妻【陣野卓磨】

「あなたが能力を使えば屍霊の引き留めくらいは出来たんじゃないかしら」


 理事長の冷ややかな視線が戦邊へと向けられる。それに対して戦邊は気味の悪い笑顔を崩す事はない。


「いやいや、私は自分にとって得とならない無駄な事をして疲れるなんて事をしたくありませんのでね。有象無象の輩がいくら死んだ所で、私には微塵の興味もありませんし。尤も、私達が標的となったのならば話は別ですがね」


「腐れ外道が……」


「はっはっは、何とでもどうぞ。余計な事に関わるとろくな目に合いませんからな」


 見ている感じだと理事長と戦邊は知り合いのようだ。仲がいいとは言えなそうだが。


「源士郎さん、長居は無用ですわ。中頭さんに貸しを作る事も出来ましたし、私達はさっさと退散しましょう」


「貸し、貸しとな。ほほう、弧乃羽はとても気が利くねぇ」


 そう言う理事長は、一層不機嫌さを露わにして二人を見ている。


「貸し、とは何の事かしら」


「周囲にいた一般人の記憶を消して差し上げておきましたわ。貴女の戦闘に関するね。あまり大勢に見られて覚えられては、今後何かと支障が出るかと思いまして。余計なお世話だったかしら?」


 そう言い不敵な笑みを浮かべる戦邊弧乃羽。サラッと言われたが、とても重要な発言の様な気がする。

 記憶……記憶を消す……。その言葉を頭で何度も流していると、御厨や洲崎の顔が浮かんできた。あの時思った違和感、もしかして……。


「ええ、余計なお世話ね。貴女のような傲慢知己な厚化粧の世話になる覚えは微塵もありません。勝手にやって貸し借り等とは、押し付けがましいにも程があるわね」


「あ、厚化しょ……! こんのクソババアが……」


 小声で囁く戦邊弧乃羽の顔が引きつっている。そして二人の間に、バチバチと火花が散っている様な気がした。

 どう見ても戦邊弧乃羽の方が年上に見えるのだが、クソババアとはどういう事だろうか。そういえば日和坂も理事長の事をババアと言っていた気がする。

 そんな中、七瀬刑事はというと、なぜかボーっとしていて虚ろな目で宙を眺めている。まるで心ここにあらずだ。もしかして戦邊弧乃羽の言った『周囲の一般人の記憶を消した』に七瀬刑事も含まれているんじゃないだろうか。

 俺は何ともない。理事長の戦う様も鮮明に覚えている。俺はあえて残されたのだろうか。


「ま、まぁ……私達の事が相当お嫌いなようですし、本来ならここで私達に会ったという記憶も貴女の頭の中からぶっ飛ばしてあげたいのは山々ですけど、中頭さんはバケモノですからね。化粧でも隠せない醜い種の面の皮に哀れささえ感じますわよ」


「戦邊弧乃羽さん、貴女は今ここで今すぐに、四十四年という短い人生の歴史に幕を下ろしたいのかしら?」


「何で私の年を……っ!!」


「あら、公開情報じゃなかったかしら? あんまりそんな顔をしていると化粧がひび割れて素顔が丸見えになってしまいますよ。フフッ」


「ぐっ……キイイィ!! 言わせておけば……っ!! オマエの記憶を操作できるのなら死ぬまでグチャグチャにしてやるのに!」


 オブラートに包んでいるとは言え、仮にも警察官である七瀬刑事を目の前にしてこの殺すという発言である。

 場の空気が凍り付いているのが分かる。当の七瀬刑事は心ここにあらずで、この会話を聞いているのかどうかすら分からないが。


「は、ははっはっは、喧嘩はよくありませんよ。弧乃羽、もうこれ以上ここにいても何もない。そろそろおいとましようじゃないか。彼女と剣を交えるには私達じゃ力不足だしね」


「そ、そうね。記憶は……まぁいいわ。戻さないで置いて差し上げます。面倒臭いし」


 冷や汗を垂らしながら笑う戦邊源士郎に窘められて、二人はそう言うと踵を返し公園の外へと足を向けて行ってしまった。

 残されたのは俺と理事長、そして七瀬刑事。周辺には生き残った警官が何名かいる様だったが、皆七瀬刑事と同じ様に宙を見つめながらボーっとしている。


 理事長は戦邊がこの場を後にした事を確認すると、ベンチへと力なく倒れるように腰掛けた。

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