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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-14-2.一方的に責められる【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/13

 朝のホームルームが終わり、担任たちは教室を出て行った。

 女子の大部分は、影姫の周囲を取り囲むように集まり、何かを聞き出そうと熱心に質問している。それに対し、影姫は落ち着いた様子で淡々と答えている。

 ウチの学園は校則で髪色を厳しく指定しているわけではないため、黒以外が特に珍しいわけではないが、この年で真っ白な髪は珍しくもあり、興味を引かれるのだろう。

 アルビノかどうかと言えば、目はそうではないようだし、脱色したような色合いでもない。見ていると、何か不思議な印象を与える髪色だ。


 影姫の周囲では黄色い声が飛び交っている。それに引き換え、俺の方は……。


「陣野殿! 昨日のアレは一体なんでござるか!? それに……それにぃ!」


 二階堂と三島が俺に近づいてきて、詰め寄るように質問してきた。暑苦しく、むさ苦しい雰囲気だ。向こうの人数と違いこっちは少ないのに、影姫の周りとは違った熱量の熱気が漂ってくる。

 ああ、三島、顔を近づけるな。太った体が急接近してくると、まだ四月だというのに非常に暑苦しい。


「いや、昨日のは違うんだ。友惟ともただからチラッとは話を聞いたんだが、まぁ聞いてくれよ。とりあえず俺をグループに復帰させてくれ。話はそれからだ」


 そう返事をしようとするが、怒り心頭の彼らの耳には俺の言葉が届いていない。


「そうなんだな! それにあの! 苗字が一緒だからって君の事は信用できないんだな! まさか一緒に住んでいるんではないだろうね陣野氏! えぇ!? 生涯単身を貫くと言うマジカルメイド喫茶での誓いは嘘だったのかい!?」


 影姫の方をこっそり指差し、三島がさらに顔を近づけてくる。鼻先がくっつきそうだ。体から発する熱気がこちらまで伝わってくる。鼻脂をつけるのは絶対にやめてほしい。


「いや、まぁそうなんだけど、聞けって人の話をだな……一方的に責め立てられたって何の解決にもならんだろ」


 言い訳しようとするが、やはりこの二人だ。話を聞いてくれれば解決までの道のりが早まるはずだが、熱くなると視野が狭まり、人の言葉を全く聞こうとしない。


「じじじじ陣野殿! 妹属性と幼馴染属性まで持ち合わせていながら、ハーレム属性に急な訳あり転校生属性まで獲得するとは!! SSレアにSSレア取得とは嫉妬アンド嫉妬ですぞ!!」


 二階堂の握り拳がゆらゆらと湯気を立てる。チラッと二階堂と三島の間を見ると、隣の席で影姫の方へ行かず、静かに次の授業の準備をしている霙月みつきが目に入った。すると、彼女も俺の視線に気づいたのか、ちらりとこちらを見て、あはは、と少し苦笑いを浮かべ、すぐに視線を逸らした。


 さすがに、霙月にこの二人から助けてくれとは言えないが、昨日兵藤と七瀬の絡みに付き合ったのに、一言の助け舟もないのは、これまた辛いものがある。


「僕らの誓いはガラスのように粉々に砕け散ったんだな……」


「そう! 分厚く固められた強化ガラスだと思っておりましたのに、まさにこれビニールの様に薄く脆いガラスでしたなぁ! プレパラートも吃驚でござる! 許せませんぞぉ~! これはおこですぞ~!」


 二階堂も三島も眼鏡を曇らせながら、恨めしそうにこちらを見つめる。


「い、いや、二階堂、お前も妹いるじゃんよ……」


 目を逸らしつつそう言うと、二階堂の表情が一転、真顔になる。顔を両手でムンズと鷲掴みにされ、頭を無理やり二階堂の顔の方へ向けさせられた。


「陣野殿、君は拙者の顔を直視しながらでも今と同じ台詞を言えるのかね? サバンナの中心でも同じ事が言えるのかね!? 拙者の妹がギャルゲに登場したとして……攻略しようと思えるのかね……?」


 三島も横で「そうだそうだ!」と二階堂にエールを送る。ここで同意の相槌を送る三島も失礼な話だが、正直なところ、そんなことは言えない。言えるはずがない。

 近づけられた顔には、細い目、伸びた鼻の下、薄い唇……。これを女子にした顔を想像するだなんて。


「ならば! 自身が保有する、妹属性と幼馴染属性ら、ハーレム属性に急な訳あり転校生属性を捨てて、我が愛しき妹とお付き合いができるのかね!? 永遠の愛を誓い合う事が出来るのかね!?」


「い、いや、それは……」


 二階堂の妹の写真は見たことがあるが、それに対して意見を求められてもノーコメントとしか言えない。どうやら今日は冷静に説明するのも難しそうだ。


 仕方ない、このままでは埒が明かないので、後で友惟に頼んでゆっくり説明してもらおう。ヒートアップしているこの二人に和解を持ちかけるのは俺には無理だ。

 二人の気が落ち着いてSNSのグループに俺が復帰していれば解決済みという事で、今はただ待つしかない。


「クレイジー! ユーアークレイジー! 無言で拒否をするなど言語道断でござるぞ! それがしは妹になんと説明すればよいのやら! だが、拙者の優しき妹は汚れきったお主に慈悲を与えることだろう……否否否ァ! 妹が許しても兄であるこの拙者が許せん!」


 「拙者」だの「某」だの一人称がぐちゃぐちゃだ。などと思いつつ、俺が答えを出せずに目を逸らすと、頭を抱える二階堂が大げさに声を上げる。

 そもそも妹に今の話をしなければいいだけだろうに……。


「とにかく、陣野殿が我々に説明責任を果たすまでは断固非難を行いますぞ!」


 三島も再び「そうだそうだ!」とエールを送る。いや、今説明しようとしたのに聞こうとしないのはどこのどいつだ。


 そう言い残し、二人はくねくねと妙な動作をしながら俺の席から離れていった。こいつらはこんな話をしていても恥ずかしくないのだろうか。周囲の目が気にならないのだろうか。俺は正直恥ずかしい。○○属性だなんて、おおっぴらに話す話題ではないだろうに。


 新学年になってまだ二日目だが、近くに友惟がいないことがこれほど辛いものかと痛感せざるを得なかった。そして、二人が去ったほぼ同時にチャイムが鳴り、一時限目の担当教師が教室の扉を開けて入ってきた。


 新学年早々、疲れる出来事が続く……。


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