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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-22-6.腹が痛い【陣野卓磨】

 映画館、ゲームセンター、昼にはファーストフード店で食事もした。

 ……喫茶店を出てから色々と施設を巡った。格好悪いが、金のない俺は天正寺の言葉に甘えて会計を全て任せた。俺みたいなパッとしない男が金払いのいい天正寺を連れていたせいか、何も知らない周りの見知らぬ男達からの視線が痛く感じた。


 映画を見て笑って、泣いて。ゲームセンターではしゃいで……。昼から回ったウインドウショッピングなんかは、俺はつまらなかったが天正寺はそこそこ楽しんでいた様だった。

 二人で遊びまわっているとどう見ても普通の女の子にしか見えなかった。

 カーストの頂点に立って弱い人間を虐めて喜ぶような人間には見えなかった。

 そう思うと、喫茶店で見た記憶が再び頭の中に蘇ってくる。天正寺を含めた三人がなぜ伊刈を虐めるに至ったかがすごく気になってくる。


 しかし……最後に寄った店で天正寺に勧められるがまま食べた大盛りパフェのせいか、腹の調子が悪い。冷たいものを食いすぎたか。


「今日はありがとう」


 そして、今はウチの近くにあるあさぎり公園にいる。

 ここに来ると一つ思い出す事がある。金田が赤マントによって池に沈められた公園だ。金田は懲りずにあの時の経験談をネタにまた小銭を稼いだらしいが……。図太い女だ。


 ベンチに二人で座り、休憩をしている。

 というか、時間的にも今日はもうお開きだろう。天正寺は満足したのだろうか。

 天正寺の方を見ると、どこかすっきりとした顔で空を眺めている。


「いや、こちらこそ……女子と二人で出かけると疲れるしお金がかかるんだなって勉強になったよ……」


 俺は金を出していないが、天正寺が会計を済ませる姿を見ていると、自分の財布の中を思い出して本当に情けないというか何というか、時々惨めな気持ちになった。自分もダラダラとしてないで少しくらいはバイトでもした方がいいのではと思ってしまう。


「何言ってんのよ。陣野君だってそのうち彼女くらい作りたいんでしょ? それだったらバイトでも何でもしてお金くらい稼がないと。たまにはいいだろうけど、毎度毎度割勘なんて言ってたら嫌われちゃうわよ。今日の経験を生かしてさ、烏丸さんでも誘ってみたらどうなのよ」


「え、なんで?」


 そんな俺のボケッとした顔を見て溜息を付く天正寺からは、それ以上の返事は返ってこなかった。そして天正寺は、おもむろに財布を取り出してその中から小さな金属を一つ取り出した。それは小さな鍵だった。


「話し変わるけどさ……話すかどうか迷ったんだけど、陣野君もあの時いたし……これ、何か分かる?」


 鍵だ。どう見ても鍵。だが、何の鍵なのかまでは分からない。分からないのだが……そのカギを見た瞬間、数珠をしている手首が熱くなるのを感じた。

 そしてそこから頭に伝わってくる『この鍵の記憶を見なければいけない』という意識が沸々と沸いて来る。


「まぁ、鍵だよな。何処の鍵か知らんけど」


 なぜか、鍵を見ていると心臓の鼓動が早くなる。月紅石から語りかけられるような感覚。今朝の喫茶店の時と同じ様な感覚。


「これさ、学校の屋上の鍵なの。前についてた南京錠の……」


 屋上の南京錠……。それを聞いて、南京錠を触った時に見た記憶を即座に思い出してしまった。悲痛な叫びを上げる伊刈、それをあざ笑う天正寺達三人。天正寺もそれを思い出しているのかして、顔つきが少し暗くなる。


「本当は学校に返した方がいいって分かってるんだけどね。そうしたら色々バレると思うと怖くて……。それはそれで、反省してないんじゃないかって思われるかもしれないってのは分かってるんだけど、どうしてもできなくて」


 鍵を見つめて呟くように話す天正寺の手の平の上にある鍵を見ると、一つ気になる事があった。


「まぁ、な。でもさ天正寺、その鍵って職員室に置いてあったんだろ? どうやって持ち出したんだ?」


「……ううん、違うの。この鍵、私が職員室から持ち出したんじゃないの」


「じゃあどうやって」


「あの日……あの日の朝、学校に登校して机の中を見たら、手紙と一緒にこの鍵が入ってたのよ。『屋上の鍵でーす。ストレス発散にご活用ください♪』って書かれた手紙と一緒に封筒に入れられて。ホント、あの時の私はどうかしてた。何年かぶりに一緒に遊んでくれる友達が出来て、浮かれてたのかな」


 天正寺はそういうと鍵を財布の中にしまってしまった。

 待て、待ってくれ。その鍵を俺に……。

 しかし、その言葉は俺の口から出てくることはなかった。見なければいけないが、見てしまうとまた前に見た南京錠のような胸糞の悪くなるような記憶を見せられるかもしれないという意識がどこかに芽生えたのだろう。

 見なければならないという意識と、見たくないという意識。それが俺の中でせめぎ合っている。


「そ、そうか……」


 真剣な話をしている最中だったのだが、また腹がグルグルとして来た。それによって適当な返事しか出来ない上に、俺の頭の中に張り詰めていた対抗する意識達も薄れていった。


 トイレ、この公園にはトイレはないのか。


 辺りを見回すと、二つの入り口がある一つの小さな建物。遠目には男性のマークと女性のマークが見える気がする。まごうことなき公衆トイレが少し離れたところではあるが存在している。


 ど、どうする。こんな真剣なしんみりとした話をしている時に俺はウ○コに行くからと話をぶった切るのか。

 どうすればいいんだ。助けてくれ。

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