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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-22-3.天正寺の想い【陣野卓磨】

 席について砂河さんに注文を言い終えると、天正寺がおもむろに話をし始めた。


「私ね、来週から海外留学に行く事になったんだ」


 突然の想像もしていなかった話で少し驚いたが、なぜその話を俺にするのかが少し分からなかった。

 正直、天正寺とはそんなに仲が良い訳でもないし、伊刈がああいう態度をとったとはいえ、俺自身は天正寺に対してあまりいい印象は持ってないからだ。


「へ、へぇ。何処の国行くの?」


「アメリカのカリフォルニア。アメリカの中では比較的安全なんだって。お兄ちゃんが職場の上司に相談して紹介してもらって……」


 そう言う天正寺の顔は、少し寂しそうだ。日本を離れるというのは不安もあるのだろう。


「でも、また突然だな。やっぱ……なんていうか、学校居辛いのか?」


 月曜の事が頭に浮かぶ。一応質問として聞いては見たが、居辛いのは確実だろう。

 アレで居心地がいいなんて言える精神の持ち主など、そうそういないはずだ。

 俺だったら即刻登校拒否して家に引き篭もってしまうことだろう。


「うん……まぁ、それもあるけど……私ね、将来さ、世界で色々な事に苦しんでいる人を助ける為のボランティア的な仕事に着けたらなって思って。その為にはまず語学、英語かなって」


「……そっか」


「伊刈さんとの最後の約束をした時、自分のやった事に死ぬほど後悔したの。だから、今後は人を助けれる側に立って、少しでも……伊刈さんの想いに向き合えたらなって思ったの。もちろん、それで完全に罪が償われるなんて思ってないけど……私の自己満足かもしれないけど、何もしないよりはマシかなって」


 まず思ったのは、思ったより前向きなんだなと言うことだった。父親も両面鬼人に殺されて、精神的にどん底になっているのではないかと思っていたが、それも俺の取り越し苦労だったようだ。


「そっか。うん、いいと思う。俺もそれはいいと思うよ。伊刈の最後のあの言葉で天正寺が心を入れ替えてそういう方向に向かってくれるって言うのなら、伊刈だって納得してくれるさ」


「だといいんだけどね。私がしっかりしないと美里や緑にも顔向けできないし……」


 そう言って少し寂しそうな笑いを浮かべる天正寺。


 話をしていると、注文した品が運ばれてきた。

 砂河さんの手によって、天正寺の前にアイスコーヒーが、俺の前にレモンティーが置かれていく。


「で、その話をする為に俺を呼んだの?」


「え、うん、それもあるんだけどね……自分勝手かもしれないけど、日本を離れるに当たってさ、いい思い出なんて一つも無かったから……思い出作りに、一日位楽しく遊べたらなって思ったんだけど、駄目だったかな。他に呼べそうな人いないし、影姫さんにも嫌われちゃってるみたいだし」


「あー、影姫は気にする事ないよ。アイツはいつもあんな感じだから。あんまり好き嫌いも表に出さないタイプだからな。横にいても何考えてるか全く分からんし」


「そう? 私は初対面の時すっごい言われたけど」


 そう言って天正寺は苦笑しつつアイスコーヒーのグラスを手に取った。俺もソレを見て何気なくレモンティーのグラスを手に取る。

 すると、それは突然に襲ってきた。急激に意識が遠くなってくる。アレだ。記憶を見る時の……。だが、制御が出来ない。意識を元に戻す事が出来ない。いつもより強い感覚でソレが襲ってくる。

 そんなに急いで俺に見せなければならないものなのか。

 なぜ、今ここで。天正寺の慌てる声が耳に入ってくるが、何を言っているか分からない。何を見せられるんだ、このグラスから。

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