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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-14-1.突然の転校生【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/13

 教室にいる生徒たちがざわついている。それとは対照的に、俺は言葉もなく呆然と座ったままだった。

 いや、少し考えれば予想できた事態だったのかもしれない。アニメやゲームではよく見る展開だ。先日の話では、彼女は俺と同い年だったし、今何をしているかといった話も昨日は聞いていなかった。


 皆、目の前の教卓に立つ担任の田中の横に立っている人物を見つめている。横にいるのは副担任の柴島くにじま先生ではない。柴島先生は教室の後ろで、ホームルームを見守るように立っている。


「私も今朝聞いたばかりで、かなり急な事だが、このクラスに転校生が入ることになった。まだ始業式が終わったばかりだし、授業に遅れが出るといったことはないと思うが、転校ということで色々と戸惑いもあるだろう。困っている姿を見かけたら助けてやるように」


 田中はそう言い終えると、横に立つすまし顔の人物に挨拶を促した。いや、もう名前を隠す必要はないだろう。


 影姫だ。影姫が霧雨学園の制服を着て、田中の横に立っている。


陣野影姫じんのかげひめです。宜しくお願いします」


 ペコリと一礼し、クラスを見渡す。だが、俺と視線を合わせることはなかった。


「聞いての通りだ。気づいた者もいるかもしれないが、このクラスには同じ苗字の者がいる。陣野、そうだな?」


 不意に田中から話を振られ、クラス中の視線が俺に集中する。


「え、は、はい」


 突然振られて驚いた俺は、どこか抜けた声で返事をした。

 学校の転校というのは、こんなに早く手続きが済むものなのだろうか。それとも、春休み中にすでに手続きを進めていたのだろうか。しかし、それにしては始業式の日には出席していなかった。さまざまな疑問が頭に浮かび、俺の思考は混乱するばかりだった。


「本来ならば学園の制度上、こういった血縁者のある者は別のクラスに配属されることになるのだが、理事長の鶴の一声でこのクラスに配属されることになった。クラス替えでまだクラスに馴染めていない者たちもいるだろうし、転校してきたこっちの陣野も含めて、皆仲良くしてやってくれ」


 田中の言葉は抑揚が少なく、どこか冷たい響きを帯びている。仲良くしてほしいという言葉も、棒読みで感情が感じられない。まるで台本を読んでいるだけのような口調だ。

 昨年はもう少しマシだった気がするが、日に日にその機械的な態度が増しているように思える。表情もどこか気の抜けた印象があり、昨年は「生徒の不正は見逃さない」と言わんばかりに、もっとキリッとした顔をしていた記憶があるのだが、今はまるで別人のようだ。


「それとだ、こっちの陣野は……紛らわしいな。陣野さんと呼ぶか。陣野さんは今日はまだ色々と手続きがあるらしく、昼で帰るとのことだ。何かと聞きたいこともあるかもしれないが、あまり無駄話で引き止めないように」


 名前こそ出さないものの、田中の視線は兵藤や七瀬の方を見ている。その二人を含む何人かが「はーい」と小さな声で返事をし、ざわめきが少しずつ小さくなっていった。


「席は……急な話で新しい机と椅子の準備が出来ていないからな……。御厨みくりやの席が空いているな。丁度いい、そこに座ってもらおう。三島、机の上の花瓶をどけてやれ。後ろのロッカーの上にでも置いておけ」


 三島の席は御厨の席のすぐ後ろだ。

 三島の方を見ると、分厚い眼鏡を曇らせながら何か言いたそうにもじもじしている。

 それはそうだろう。こうも簡単に亡くなった生徒の机を使おうとするものだろうか。


「せ、先生……あの席はもうちょっと空けておいた方が……」


 近くの女生徒がボソッと田中に向かって発言した。顔は見たことがあるが、名前は分からない。おそらく今年初めて同じクラスになった生徒だろう。


 田中は無表情にその生徒を見つめ、クラスを見回すと一息置いて話し始めた。


「このクラスの生徒は今現在、丁度三十人だ。席を一つ追加するということは、今ある六つの列のどこか一列が、席と席の間がせばまることになる。狭まれば授業時間や休憩時間などに不自由を感じることもあるだろう。私は一向に構わないが、今この中にいる誰か五人が犠牲になる。皆がそれで構わないなら席を一つ用意させる」


 高圧的なその口調に、クラスが静まり返った。確かに言っていることはもっともな話ではあるが、田中は本当に空気が読めない。何も言わず席を用意すれば、誰も何も言わなかっただろう。


「田中先生、私はどういった席であっても気には致しません。机に花が添えられているということで大方の事情は察しますが、今の時点であそこしか席がないのでしたら、そこで構いません」


 静まり返った室内で、影姫が田中にそう口添えした。田中も影姫の言葉に表情を変えずに頷く。


「聞いての通りだ。本人がこう言っているのだし、皆が気にする必要はない。三島、何をしている。さっさとどかさないか」


 そう言われると、三島は慌てて御厨の席から教室の後ろにあるロッカーの上へと花瓶を移動させた。

 それを確認すると、影姫は教壇を降り、席に向かって歩いていく。歩く影姫の真っ白な髪は、LED蛍光灯の光を受けてキラキラと輝いていた。


 昨日の御厨の訃報の時と同じく、皆俯いて黙ってはいるものの、悲しそうにしている者はあまりいない。それでも、暗い雰囲気の中で、朝のホームルームは幕を閉じた。


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