5-20-2.教師達の【天正寺恭子】
「わだじは……わだぢはぁっ……あああああああああああああぁぁぁ!!」
一気に涙があふれだし泣き叫ぶ私の私の叫び声で、再び教室が静寂に包まれる。膝から力が抜けて席に再びついてしまう。と、同時に慌ただしい足音と共に教師が教室に駆け入ってきた。
「どうした! 何してんの!?」
聞こえてきた声からして、一人は隣のクラスの副担任である柴島先生であった。
「あー……これは……」
もう一人は担任の白石先生。
いかにも面倒事は止めてくれと言わんばかりのやる気のない声だ。
「ちょっと、誰!? こんな事やったの!」
柴島先生が私の肩に手を添えて慰めつつも教室にいる人間に問いただす。だが、当然の如く名乗り出る者などいるはずもない。皆素知らぬ顔をして、我関せずを貫き通している。
「あー、もう……面倒臭いな……誰だかわからんが、名乗り出るのも難しいと思うから、もうこんな事するなよ」
やる気のない小さな声が耳の中に飛び込んできた。
白石先生は関わりたくないようだ。伊刈さんもこんな気持ちであったのだろう。助けてくれる人がいないという事がこんなにも孤独であるという事。
「白石先生、何言ってるんですか! こういう事の積み重ねがですね……ちょっと! 今ここで名乗り出るのが無理なら後でもいいから私の所に来なさい! 事情があるなら聞いたげるから! わかった!?」
柴島先生が私を庇うかの如く教室中に言葉を投げかけた。
もちろん返事はない。誰一人口を開くことなく、ただ此方に視線を向けているだけであった。
「柴島先生、これは僕のクラスの事ですから……あまり口を出してややこしく……この場で収まるならそれでいいじゃないですか。前の時だって僕は……それに柴島先生も」
「白石先生、あなた本当に教師ですか!? 教え子がこんな状況になってるのに、自分の言ってる事、分かってるんですか!? 前の時、あんな事になったから後悔してるんでしょ!」
「しかしですね、あまり大事になるとまたPTAが……」
「もういいです……!」
そう言うと柴島先生は私の肩に再び手を添えて優しく語りかけてきた。
「天正寺さん、今日はとりあえず帰りましょう。あとは私が何とか確認とっとくから」
柴島先生はそう言いながら、床に落ちた教科書を拾いながら宥めてくれる。だが、そんな柴島先生の優しさすらも今の私には辛いものだった。
「うっ……うぐぅ……」
どうして柴島先生は自分のクラスでもないのに私に味方してくれるのだろうか。
どうして伊刈さんの時は何もしなかったのに私の時は助けてくれるのだろうか。
全然分からなかった。理解できなかった。でも、今まで見てきた柴島先生とは違う、私を庇ってくれた時、何か強い意志みたいな気迫を感じられた。
そして、抑えられない漏れる嗚咽を口から吐きながら、言われるがままに鞄を手に取り席を立つ。
このまま教室に残っても、耐えられない重圧に押し潰されそうな気分は変わらないだろう。
今日は帰るしかない……。帰っても孤独。明日になればまた登校しなければいけない。お父さんが死んで消沈しているお母さんに心配をかける訳には行かない。
私は学校で元の〝空気〟に戻れるのだろうか……。




