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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-13-4.サイトのアドレス【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/12

「なんだよ?」


 神妙な顔で急に話題を変えた俺を、友惟ともただが不思議そうな表情で振り返った。


「友惟さ、霧雨学園の裏サイトのアドレスって知ってるか? ほら、去年の夏くらいからだったか噂になってたじゃん。匿名でいろんなこと書きまくられてる掲示板サイト」


 友惟は俺の質問を聞いた途端、眉間に皺を寄せて少し黙り込んだ。何かを思い出し、慎重に言葉を選んでいるようだ。

 この雰囲ふんいきから察するに、彼は何かを知っているに違いない。


「ああ、前にスマホから何回か見たことあるな。三島から教えてもらったんだが、今時こんな掲示板サイトあるんだなって感じはしたけど。書き込みとかはしたことないけどな」


 どうやらやはり知っているらしい。だが、その口調は嫌な記憶を思い出したかのように、少し暗く重みを帯びている。

 その雰囲気から聞きにくいオーラが漂っているが、もし聞くなら友惟が最も聞きやすい相手だと俺は判断した。


「あー、残ってたらでいいんだけど、URL教えてくんね?」


 そう尋ねた俺に対し、友惟の怪訝な視線が鋭く突き刺さる。


「卓磨、そんなのに興味あんのか?」


「いや、興味と言うか……」


「何か知らんが止めとけ止めとけ。あることないこと好き勝手に書き込んであるだけで気分いいもんじゃねーぞ。書いてあるのは怨み辛み妬み誹謗中傷罵詈雑言がほとんど。標的にされてるのが知ってる人間ってのもあるし、書いてる奴も知ってる奴なのかもって思うと、ホント見てて気分悪かった」


「まぁ、サイトの性質上大体予想はつくが……」


「多分アレだ、書き込みしてる奴も別の奴に書き込まれて更に負の感情が増幅されて、当時はなんか色々カオスになってたぞ。今はどうなってるか知らんけど、止めといた方がいいと忠告はしておくぜ」


 友惟の言うことはもっともだ。匿名掲示板なんて、そういうものだ。そのサイトに限らず、インターネット上の類似掲示板はどこも同じで、最初は真面目な会話から始まっても、いつしか顔も知らない者同士で罵り合う場と化す。

 その現実を認めつつも、俺の中で何か引っかかるものがあった。


「まぁ、そうなんだけどよ……」


 忠告してくれているものを無理に聞き出すのも気が引ける。

 友惟も少し暗い表情を浮かべている。友人がこんなサイトのURLを求めてきたら、俺だって何か勘ぐってしまうかもしれない。


「何か歯切れ悪いな。あのサイト見るの、何か必要な事でもあんのか?」


「必要かと改めて聞かれると、なんと答えて良いのか分からんのだが……」


 本当に必要なのか、自分でも疑問が浮かぶ。

 だが、以前のような興味本位とは異なる。心の奥底で何かが気になっているのだ。その「何か」が俺自身にもはっきりとは分からない。


「うーん、まぁ、友惟が嫌ならいいよ。無理に聞いてまで見るモンでもないだろうし……」


 そう言って黙ること数秒。友惟は俺の方を見て溜息をつくと、口を開いた。


「いいよ、わかった。教えてやるからスマホ貸してみな」


「え、いいのか?」


「卓磨が何か面倒っぽい事に首を突っ込みたがるなんて、そうそうあるもんじゃねぇしな。長い付き合いだし、その辺は分かってるよ。なんかあるんだろ? 理由は聞かんけど、ややこしい事ならあんま深入りはするなよ。お前、喧嘩弱いんだし」


 黙り込んでいる俺を見て、友惟は立ち止まり、スマホを要求してきた。

 いい奴だ。昔から俺の表情を見て、理由を問わず手を貸してくれる。


「まだ残ってたかな……」


 友惟は自分のスマホを取り出し、それを見ながら俺のスマホを操作し始めた。

 長年の付き合いがあるため、スマホの中身を見られても特に問題はない。というか、ゲームは好きだがスマホゲームは嫌いなので、アプリをあまり入れていない。見られて困るようなものはほとんどない。


「ほれ、ここ」


 友惟が返してきたスマホには、一つのサイトが映し出されていた。

 簡素な作りで、真っ黒な背景に人カウンターと掲示板への入り口だけが表示されている。下には『グレゴルネットワーク』という会社の広告バナーが貼られている。

 最近ではあまり見ない古いデザインのサイトだ。その外観は、〝検索してはいけない言葉〟というジャンルのまとめ動画でよく見る、今ではアクセスできない昔のサイトを彷彿とさせる。


「おう、サンキューな。別に誹謗中傷とか書き込んだりする訳じゃないから、その点は安心してくれ」


「わかってるよ。何度も言うけど付き合い長いんだし、卓磨がそういう事する奴だなんて思ってねーよ。でも、何か面白そうな事なら声かけてくれよ?」


 その言葉に少し安心する。自分を信じてくれる友人がいることは、心を軽くしてくれる。


「ああ、分かってるって」


 そう返事をすると、再び画面に視線を落とした。

 とりあえずサイトをブックマークに追加し、URLを確保する。スマホで小さな文字を読むのは苦手なので、学校が終わってから家のパソコンで確認しようと思い、ブラウザメニューを閉じた。その瞬間、スマホの画面に何かが映った。

 一瞬、黒い背景の中を黒い影のようなものが横切ったように見えたのだ。


 黒い背景なのに、それでも分かる黒い影。目の錯覚かと思い、立ち止まって目を凝らして画面を見つめるが、はっきりとは分からない。

 何だったのだろうか。


「どうした?」


 立ち止まった俺に続いて、友惟も怪訝な表情でこちらに目を向けた。


「いや、何か変な……故障かな。スマホの画面にノイズが入った様に見えて」


「ノイズ?」


 スマホの画面を見つめながらそんなことを考えていたら、立ち止まっていたせいか、燕と霙月みつきが追いついてきた。


「何やってんの?」


 立ち止まる俺たちに、燕が不思議そうに声をかけてくる。隣にいる霙月も、同じく不思議そうな表情でこちらを見つめている。


「いや、なんでもない」


 慌ててスマホをポケットにしまった。


「そーそー、なんでもないよ。足の遅い君らを待ってやってたのよ。さ、行こうか」


 友惟も俺に合わせてそう答える。学校の裏サイトの話をしていたなど、言うわけにはいかない。そして、四人は再び歩き出した。


 何だったのだろうか。今、画面に一瞬映ったもの。

 錯覚や見間違いではない。確かに何かが横切った。

 怪しいサイトにありがちな埋め込みプログラムか何かだろうか。


 しかし、あまり気にしても仕方ないと思い、俺はこの時それ以上深く考えなかった。

 だが、心のどこかでその黒い影が、昨日からの「ゾワゾワする感覚」と繋がっているのではないかという疑念が芽生え始めていた。


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