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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-17-3.二体の屍霊【七瀬厳八】

 そうだ、コイツは……あの時の……。


「オマエ、警察官ダナ」


 背筋を震わせ目の前の少女と睨み合っていると、部屋の中から不気味な男の声が聞こえてきた。直感的に悪い予感がし、鬼塚を部屋から押し出す。


「えっ!? あ!」


 不意に体を押され、元いたリビングに転げ倒れる鬼塚。


「ちっ! 御厨さん! 部屋から出てください! この部屋にいると危険です!」


 だが、そんな俺の声も聞こえないのか御厨氏は言葉もなく奥さんの前で手を震わせ泣き崩れている。そんな御厨氏のいる横にあるベッド。その下の数センチしかない隙間に視線が言った瞬間、悪い予感は確信に変わった。ベッドの下の僅かな隙間から誰かも分からない目が覗いている。


 どうする、目の前にいる少女は十中八九屍霊に間違いない。それに加えてベッドの下の奴。こんな隙間に入れる奴は人間じゃぁない。コイツも屍霊に間違いないだろう。

 どうする、御厨氏を力づくでひっぱってでも部屋から引きずり出すべきか。


「鬼塚! お前は先に逃げろ! 俺は……!」


 決心をし、そう言って駆け出そうとした瞬間だった。僅かな一瞬の迷いが俺を後手に回らせることとなってしまった。ベッドの隙間から伸び出てきた六本の手が御厨氏の体を掴み、引っ張り出したのだ。


「な、なんだ!? 何だこの手は!?」


 突然の事に我に返り、驚き手を引き剥がそうとする御厨氏。


「御厨さん!」


「た、助けてくれ! 痛い! 痛いい!! ヒィッ! ヒィイイッ!!」


 御厨氏の体が、足先から徐々にベッドの下の隙間へと引きずりこまれていく。

 大人一人の体がそんな隙間に入ればベッドが持ち上がりそうなものだが、ベッドは微動だにしない。まるで巨大な岩石が上に乗ってベッドが持ち上がらないように支えているのかと思うほどに動かないのだ。


「今、あなたの目の前にいるの。今あなたの目の前にいるのおおおおおおおおおおお。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 助けに入りたいが、同じ言葉を繰り返す少女がグルグルと空中で回りながら俺の前に立ちふさがり、引きずり込まれる御厨氏を見ながらケタケタと笑っている。

 それを見ていることしか出来ない俺。回るたびに少女が乗ったスイカにぽっかりと空いた口から漂う腐臭で鼻がもげそうだ。


 御厨氏の体がズルズルと少しずつ引きずり込まれ、隙間から血飛沫が飛び出ている。


「七瀬さん! なにか、何が起こっているんです!?」


 鬼塚はそんな光景をみて顔面蒼白になっている。

 そして聞こえる御厨氏の断末魔。


「ああああああああ!! あああああがああああああああぁぁぁぁ!!」


 その声を最後に御厨氏は声を発さなくなってしまった。腹まで引きずり込まれて動かなくなった体は、胸、肩、腕と隙間に引きずり込まれていく。

 そして、最後には頭だけになり床へと無残に転がり落ちた。

 一頻り引きずり込み終えた後、隙間から一気に肉片が噴出しばら撒かれる。部屋中に飛び散る赤い肉片がこちらにも飛んできた。


「ぐっ……鬼塚、逃げるぞ……逃げるぞ!」


「えっ! で、でも!」


 こんな状況を見ても腰を抜かさず立っていられるとは、なかなか肝が据わっている。もしかしたら、ある程度は九条の変わりになるのかもな。だが……。


「これ見て何かできると思ってんのか! 課長から聞いてんだろ!」


 そう言って鬼塚の手を掴みドアを勢いよく閉めようとした瞬間、また先程の声が聞こえてきた。目に入ってきたのは、ベッドの下からズルズルと這い出し出てくるヘドロの様な緑がかったドス黒い物体。所々からバキバキに折れ曲がった骨が露出しており、顔も原形をとどめていない。コイツが柳川や溝口を殺した隙間男……でこっちの幼女が、九条の彼女を殺した奴か……っ。


「コイツハ違う……ドコヘ逃げた……オマエラ、警察官ダロ……」


 隙間男の顔がグニャリと動き、元の者であろう顔に戻っていく。


「な、七瀬さん、あの顔って……貴駒峠で発見された……!」


 やばい、次は俺等だ。あの六本手に捕まれば御厨氏と同じ様に何をする事もできずに殺されてしまう。


「んな事言ってる場合じゃないんだよ! 今は逃げるぞ!」


 勢いよくドアを閉めると、ドアの向こうからダダダダダダン、と打ち付ける音が聞こえてきた。木製のドアが圧に耐えられずミシミシと音を立てている。

 隙間男が俺たちに向けて手を伸ばしてきたのだ。間一髪だった。だが、このドアだって四方に僅かな隙間がある。いつまでもドアを押さえているわけにもいかない。それに幼女の方も何をしてくるか分からない。一刻も早くこの場を離れなければ間違いなく殺される。


「さっさと逃げるぞ! もたもたすんな! 対処は応援を呼んでからだ!! 俺らが死んだらそこまでなんだよ!!」


 そして、俺達は逃げた。全速力でマンションから脱出した。

 だが、あの二体が俺達を追ってくる事はなかった。なぜだろうか。それが逆に不安でならなかった。

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