5-17-2.新たな被害者【七瀬厳八】
「その時刻、御厨さんの車がエンジンをかけたまま殺害現場付近に駐車されていたと他の方から聞いています。ドライブレコーダー等があれば映像を確認させていただきたいのですが」
「……私も、何か映ってないが気になって、翌日に見てみましたがね、生憎、その件に関係しそうな事は何も映ってませんでしたよ。まぁ、一応データ保存はしてあるので、それでも見たいと仰るのならデータは差し上げますがね」
「そう言っていただけるとありがたいです。お願いできますか。……鬼塚、メモリを出してくれ。データ貰うから」
「はい」
そう言ってジャケットのポケットに手を突っ込みメモリを探し始める鬼塚。だが、見つからないのか、内ポケットやパンツのポケットにまで手を突っ込んで、わたわたとしている。
「なんだ、忘れたのか?」
「い、いえ、確かに持ってきたと思うんですが……ひょっとしたら車の中かもしれません。見てきますッ」
鬼塚がそう言い立ち上がろうとすると、御厨氏がそれを制すように声を上げる。
「ああ、いいですよ。メモリならウチにも幾つかありますから。ウチのに入れて渡しますよ。返さなくてもいいので」
「すいません、重ね重ねありがとうございます」
そう言い頭を下げる俺を軽く一瞥して、御厨氏は後ろを振り返ると隣の部屋へ繋がるドアへ向けて声を上げた。
その姿を見ると改めて思うが、目玉狩り事件の時と比べるとえらく痩せている。あの頃は俺を締め落とすくらいガタイが良かったと言うのに、相当心身共に疲れ果てているようだ。
「明乃っ……明乃っ! 前に見てた動画のデータをメモリに入れて持ってきてくれ!」
だが、御厨氏のその声に奥さんの返事が一向に返ってこない。閉ざされたドアの向こうからは物音一つせず、静けさを保っている。俺も見ていたが、奥さんは確かにあの部屋に入って行った。だが、この静けさだ。何か嫌な予感がしてきた。
「あなたっ! あなたーっ! いやああああああああ!! あがッ!! ガッ!」
その叫び声は突然だった。何事かと御厨氏が反射的に立ち上がり叫び声の聞こえた部屋へと駆け寄った。俺と鬼塚もそれに続く。
「お、おい! どうした!? 明乃!!」
御厨氏がドアを開けると、中にある奥さんの変わり果てた姿が目に入ってきた。ベッドの横に横たわる体のその胸には大きな傷、そして、目に入ってきた限り足が片方しか見えない。もう片方が折れ曲がっていて見えないと言う感じではない。足が一本しかない。切り取られている。
「あ、明乃!! 明乃ぉ!!」
その姿を見た御厨氏が血相を変えて奥さんへと駆け寄る。
俺達も所持していた銃に手を添えつつ、慎重に部屋の中へと一歩二歩と足を踏み入れる。
そして、俺の目にその姿が映った。部屋に入る前は死角になっていて見えなかった位置にソレがいた。
御厨氏の奥さんを見下ろすように宙に浮かんでいる……何だ、これは巨大なスイカに跨った少女がぷかぷかと浮かんでいるのだ。その横には大きな腕に持たれた血にまみれたナイフとフォーク。フォークの先には、切り取られた足が突き刺さっており、断面から血が滴り落ちている。
「な、七瀬さん……なんですか、あれ……」
どうやら鬼塚にも見えているようで、呆然とした顔で俺と同じ方向を見つめている。恐らく誰に見えないと言う存在ではないのだろうが、御厨氏は奥さんの事で頭がいっぱいになり気が付いていないのかもしれない。
「や、ヤバイぞ……」
ゆっくりと少女の顔がこちらを向く。口角の上がった何とも言えない不気味な微笑を向けられ、背筋に悪寒が走る。
コイツは、この顔は……俺はコイツを見た事がある……。




