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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-15-9.思い出したくない【本忠春香】

「で、どっちにするの?」


 両手に品物を持ち迷っている私に、恋がいい加減呆れた様に声を掛けてきた。

 今、私は友達である廣政恋ひろまされんと、学校帰りに近所のリサイクルショップへと足を運んでいる。

 お気に入りだった手鏡をうっかり落として割ってしまったので、代わりの物を買いに来たのだ。本当は新品で可愛い物を購入したいのだが、今月は財布の中がピンチな事もあり、とりあえず安物でいいから購入しようと、通学路途中でもあるここまで自転車を走らせて来た。


「うーん、どっちがいいかなぁ?」


「どっちでもいいよ。どうせ最終的には予備になるんでしょ? なら安い方でいいんじゃないの? 十円の手鏡と二十円の手鏡で迷っても仕方ないっしょ」


「予備って言っても可愛い方がいいしー……こっちはちょっと古臭いかなぁ。でも、こっちはこっちで……」


 そんな優柔不断な私を見かねてか、恋はフラフラと今いる場を離れていく。


「あ、どこ行くの?」


「ちょっと適当に店の中回ってるよー。終わったら声掛けてー」


 恋はそう言うと棚の角を曲がり姿を消してしまった。手鏡を両手に残される私。正直、いくら財布の中身がピンチと言えど、十円と二十円の品物だったら両方買ってしまっても大した出費ではない。だが、だからと言って手鏡二つも必要ないし……。


 そんな事を考えていると、店の入り口の方から話し声が聞こえてきた。聞いた事のある様なその男女の声に、誰だろうと思い棚の角から顔を少し出し入り口の方を覗く。すると見えてきたのは霧雨学園の制服を着た学生が三人立っていた。

 男一人に女二人。一人はその白い髪の毛を見てすぐに分かった。同じクラスの陣野影姫さんだ。と言う事は隣にいる男子生徒は陣野君か……。もう一人は……。


「……!?」


 もう一人の顔を見て、驚いて思わず声が出そうになった。

 いるはずのない人間がいる。慌てて顔を引っ込め考える。


 いや、もしかして私の見間違いだろうか。


 そう思い、目を擦りもう一度顔を覗かせ入り口の方を覗き見る。

 間違いない。伊刈……伊刈さんが影姫さんの横に立っている。

 陣野君はなぜか床にひざまずき、それを見下ろすように二人がじっとしている。何をしているのだろうか。


 いやいやいや、何をしているとかそんな事本当にどうでもいい。

 なぜ伊刈さんがここにいるかと言う事の方が重要だ。もしかして双子でもいたのだろうか。いや、そんな話聞いた事がない。

 それにあんな事があったし、今目の前にいる伊刈さんはウチの制服を着ているんだからもし双子だとしても私はその存在を知っているはずだし。それに何だか、所々少し透けている様な気もする。


 また……また、意図せずに心のどこかであの時の事を思い出して幻覚を見ているのだろうか。見知らぬ男に渡された封筒を天正寺の机の中に入れた時の事……。


 私の、私のせいじゃない。伊刈さんが自殺したのは私のせいじゃない。私は名前も思い出せないあの男に頼まれて天正寺の机にあの封筒を入れただけなんだ。中に鍵のような物が入っていたのは触った感触で分かったけど、まさかあれが屋上の鍵だったなんて知らなかったし。

 身分証を出されたくらいで信用するんじゃなかった。名前をしっかりと確認して覚えておくべきだった。あの時の事は、何処を取っても後悔しか沸いて来ない。


 あれが屋上の鍵だと知ったのは、天正寺達が同封されてた手紙読んで『コレ屋上の鍵だって~』とか話してるのをたまたま聞いて知っただけだし。私は無関係だし何の責任もない。私は伊刈さんの虐めには一切関わっていない……。


 でも待って……。

 まさか……まさかお姉ちゃんが殺されたのって……伊刈さんの呪い……?

 伊刈さんは私が天正寺に鍵を渡してしまったのを知っていて……?


 そう言う考えが頭に浮かんでくると、二ヶ月前にお姉ちゃんがバイト先の食事処で殺された悲しみもやっと落ち着いてきていたというのに、心を押し潰されそうな感情が再び押し寄せてくる。


「春香ー、決まったー? って、まだ迷ってんの?」


 そのまましばらく固まって考えを巡らせていると、恋が店を一頻り回り終えて私の元へと戻ってきた。

 声もなく恋の方を見ると、恋も私の変化に気が付いたのか表情が変わる。


「どしたん? なんかあった?」


 小声で掛けられるその声に、まともな返事が思いつかない。


「え、ううん……ごめん、やっぱりここで買うのいいや……。帰ろ……お母さんに余ってるのないか聞いてみる……」


 そう言い手鏡を元の棚に戻し入り口の方を見ると、伊刈さんの姿は消えていた。代わりに店の人が二人と話している。そして少しすると、陣野君達は店の人に連れられて奥へと行ってしまった。


「あれ、あれあれ? 今店員さんに連れて行かれたのって陣野姉弟じゃないの? 何かやったのかな?」


 恋が不思議そうにその背中を見送っている。


「いや、そんな感じは無かったけど……ちょっと座り込んでたみたいだし、体調でも悪いんじゃないかな。ね、もういいから私達は帰ろう……」


 なんだろうか、この不安。

 あの二人にさっきの事を確認するべきなんだろうか……。

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