5-15-8.帰り道【陣野卓磨】
リサイクルショップからの帰路。日はまだ出ているが、もうすぐ暮れる時間だ。
結局、リサイクルショップでは鴫野に関するこれと言った情報は得られなかった。代わりに、伊刈に関する『何か』の情報が入ってきたのは入ってきたのだが、残された情報にも謎が多くまだ頭の中がモヤモヤとする。
「一応買っては来たが……無駄だったかも知れんな」
そう言って自分が持っているビニール袋を持ち上げて眺める影姫。先程のお茶セットを一応購入してきたのだ。だが、新聞紙で包む時に俺も再び湯呑みを触ったが、一切何も感じられなかった。何かあるのならと、記憶を見れないかと念じてみるも、それでも駄目だった。無駄と言うのはその事だ。
記憶を見せようとしてくる物ならば、後で念じれば見れると思っていたのだが、これに関してはそれも出来なかったのだ。
今まで同じ品物で同じ記憶を何度も見たという経験もなかった為に、一度見た記憶は再び見れないのかと言う判断もできるのだが、今回はその内容を一切覚えていないと言う事でそう言う答えも出せずにいる。
「俺、本当にそれで記憶見てたのか?」
そう言う俺に、影姫は呆れたような顔でこちらを向く。
「私にその答えを求めるのか? 私はその記憶を直に見てないんだ。見た見てないは見た者にしか分からん事だろう。幸い今回は伊刈が見ていたのだから、卓磨も見ていたんだろうが……今後、卓磨一人で見た時に同じ様なことが起こると厄介だな」
「そうだな……全く覚えてないから何をされたのかも分からないけど、記憶を消されたら対処できなくなることもあるもんな……」
「まぁ、何にせよだ。伊刈の言っていた戦邊と言う男ともう一人の女の事は気になるが、損壊持ち去り殺人や挽肉殺人に繋がりそうな情報は何一つ得られなかったな。月紅石能力者が、今起きている二つの事件のように表立って殺人を犯すとも思えんし」
確かに、昨日今日で見た二つの記憶からだと目玉狩り事件や首切り事件に繋がるものとしか考えられない。視野を広くして見ても、せいぜい両面鬼人に関してまでだ。だが、なぜそれを今見るのか。そう考えると何かとてつもない大切な事に繋がっているんじゃないかと、そんな気がしてきた。何か二つの記憶に繋がるものがあるのだろうか。
伊刈と鴫野。生きていた頃は世代も違う二人だ。どう考えても二人に共通点も共通する人物も見えてこない。
「なぁ影姫、影姫から見て、二つの記憶に何か共通点とかは感じられないか?」
俺の質問に、宙を見つめつつしばらく黙る影姫。そして考えが纏まったのか、僅かに視線をこちらへと向けると口を開く。
「ないな。今の所、まーーーーったく分からん。私は記憶を直接見れる訳でもないし、又聞きになるから尚更だな。七瀬や蓮美から核心に迫るような情報が入らない以上、卓磨が記憶を見る『偶然』を待つしかないな」
「そうか……。偶然待ちだと被害者がまた増えちまうな」
「……仕方が無いといえば冷たいかも知れんが、どうにも出来ないだろう。私だって屍霊を事細かく感知できる訳でもないし、その点は勘に頼っている部分も大きい。それに、七瀬や蓮美の話を聞いている分には、今出現しているであろうと予想される屍霊は二体とも神出鬼没だ。地道に情報を集めて詰めていくしかないな」
「なんか、力不足を感じるな。せめて記憶を見れる物を見つけれるくらいの力があればなぁ」
「思い通りになる事なんて少ない。物の記憶を見れるだけでも十分な力だ。今できる範囲の事を存分に生かしてやっていくしかない。それに卓磨は記憶読み取りに加えて月紅石も一応使えるんだ。欲張るとろくな事がないぞ」
「そうか、そうだよな……」
歩きながら辺りを見回すと、いつも通りの風景が目に入る。帰宅途中の学生、買い物帰りの人、犬の散歩をする人、ジョギングをする人。皆、屍霊なんて化物が街をうろついているなんて知りもしないだろう。もしかしたら次は自分が誰かに殺されるかもしれないなんて、微塵も思っていないだろう。
俺もつい二ヶ月前まではそうだった。自身の状況なんていつ突然変わるか分からない。でも、それが来てしまったら対応せざるを得ない。
俺はもう逃げれないんだ。影姫の言う通り、今できる事を生かして、少しでも被害を減らしていくしかないか……。




