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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
502/613

5-15-7.店長への質問【陣野卓磨】

「なるほど、ね。この器について聞きたいと」


「はい」


 俺達は説明を終えた後、奥の応接室に通されて店長と向かい合っている。

 応接室とは言っても、恐らく商品が入っているであろうダンボールが乱雑に詰まれており、部屋がとても狭く感じられ、お客の対応をする部屋とは思えない有様となっている。


「あまり顧客の情報に関して他に漏らすと言うのは、個人情報の絡みもありますので宜しくない事なのですが……まぁ、いいでしょう。陣野さんのお孫さんなら特段悪さをする様には思えませんし……詳細はお伝えする事は出来ませんが、大まかな回答ならしてあげましょう」


 店長の細い目が影姫の方を向いている。先程から俺達の話を聞く間もずっと続いている、常に上がった口角から作られる固まったような笑顔が何とも不気味だ。どうやら爺さんの知り合いのようで俺達の事を知ってはいたようだ。


 店長の言葉を聞いて、俺は鞄から例の器を取り出すとテーブルの上に置いた。


「コレなんですけど……誰が売りに来たとかが分かればと思いまして」


 店長は数秒器を見つめると少し考え込む。


「えーっと、まず、この器はですね、先程貴方方がおられた新入荷の棚に並べられていたものになりますが……お役に立てなくて申し訳ないが、十年以上前に入荷した物になりますので私もはっきりは覚えていないですね。最近倉庫の奥に仕舞い込まれていたのを偶然発見して店に出しただけですので。当事はそういった買取の記録も細かくつけてなかったですからね。最近はもちろんつけてますが。ヒヒッ」


 話の内容は尤もらしかった。砂河さんの言っていた内容とも大体合っている。だが、最後に放たれた不気味な笑い声は、何かを隠しているんじゃないかと思わせるものがあった。


「じゃあ、あそこに置いてあったお茶セットは?」


 影姫は、器についてこれ以上深く聞いても何も情報を得られないと判断したのか、次の話に移る。


「あれは四月頃に特殊清掃業者が売りに来られたんですよ。なんでも、お住まいになられていた方が自殺したらしく、その親族も遺品の受け取りを拒否していたとかで。ですので、元の持ち主の名前等は分かりませんな。かと言って清掃業者に問い合わせた所で、やはりそちらでも個人情報の絡みがあるのえお答えいただけませんでしょうし……。まぁ、元々ウチはそういった品が多いですので」


「そうですか……ありがとうございます」


 店長はニコニコと言うかニヤニヤと言うか、よく分からない表情はしているものの質問には真摯に答えてくれた。だが、その答えに俺達が求めるような情報は含まれていなかった。屍霊の情報も、鴫野の器に関しての情報もだ。

 それどころか、伊刈に関しての記憶についてで謎が増えてしまった。


「忙しい所、時間を取らせてすいませんでした。ありがとうございました」


 影姫はそう言うとスッと立ち上がり一礼をする。


「おや、もうよろしいので? それはそれは……。こちらこそ大した返事が出来ずに……千太郎さんに宜しく言っておいて下さい。ヒヒッ」


 そして俺も立ち上がり一礼し、二人揃って部屋を出る。

 店内にはもう、他の客はいない様であった。静まり返る店内を歩き出口に向かう。


「卓磨、あの店長、どこか変だったな」


「ん? ああ、何かちょっと変わった人ではあったかなぁ」


 影姫も店長に違和感を感じた部分はあったようだ。だから質問を深くは聞かなかったのだろうか。俺には分からない。

 記憶を消された事もあってなのか、頭がよく回らない。何だか色々とまた分からなくなってきた。


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