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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-15-6.消えた記憶【陣野卓磨】

「うぐっ!? ハァッ……! ハァッ! ハァッ……!」


 目が覚めると同時に全身から大量の汗が吹き出てきた。何とも耐えようのない不安と恐怖の入り混じった感情が頭を覆い尽くしている。

 湯呑みを片手に床に跪き、俺は今、何をしていたんだ。なぜこんなに疲れているんだ。そんな疑問だけが沸々とわいて来る。


「陣野君……! なんで、こんな所で途切れて……! 続きは!? この後どうなったの!? お父さんとお母さんは……っ!」


 目を覚ました俺に気が付いた伊刈が、焦るような顔つきで俺の横に屈み顔を覗きこんでいる。影姫も同じ様に俺の前で屈んで顔を覗きこんいた。


「どうした卓磨。何かいつもと様子が違うぞ。明らかに疲れの度合いが違いすぎる。一体何を見たんだ?」


「な、何を……?」


 何を? 何を見た? 俺は何かを見ていたのか?

 視線を下ろすと、手に持っている湯呑みが目に入る。

 現実への意識がなく、手にこんな物を持って座り込んでいると言う事は、この湯呑みから記憶を見ていたのだろうか。


「卓磨より戻ってくるのが少し早かったが伊刈も同じく記憶を見ていた様だが……卓磨、もしかして、今見た記憶に関して何も覚えていないのか」


 ゆっくりと顔を上げて影姫や伊刈の顔を見るも、何も思い出せない。

 ただ、心のどこかにすっぽりと小さな穴が開いたような不思議な感覚だけが残っている。


「俺、今……何をしてた……全然思い出せない……」


 そんな俺の言葉に、お互いの顔を見合わせる影姫と伊刈。俺が嘘を付いていないと判断したのか、伊刈が今俺が見ていたと言う記憶の内容を語り始めた。


 ……。


「……で、その戦邊いくさべって言う男の人がその古ぼけた木箱を持ち上げた所で映像が突然途切れて……。陣野君、本当に何も覚えてないの?」


 伊刈の説明を受けるも、頭にその内容が全く残っていない。ただ、聞いていると僅かながら頭痛がする。思い出そうとすると更なる頭痛が襲ってくる。

 痛みを堪えつつ伊刈に向かい小さく頷くと、残念そうに俯いてしまった。


 一部の記憶を消されると言う事は、こうも不安になる事なのか。

 前から記憶がどうこう言っていた影姫の気持ちが少し分かったような気もする。


「話の内容からすると、記憶の中に出てきていた人物は二人とも何らかの月紅石能力者だな。どうやら遠隔・時限式に記憶を操作された様だな……卓磨だけを狙って伊刈の方の記憶を消さなかったのは、直積的な能力を発揮していた卓磨しか見えなかったのか……もしかしたら、警告の意味も含んでいるのかもしれない。しかし、その箱の方はどこかで聞いた事がある気がするな……。どこだったか……」


 影姫がそう言い考え込んでいると、背後からツカツカと足音が聞こえてきた。近づいてくるその音に気が付いたのか、伊刈はハッとした顔になったかと思うとその姿を消してしまった。


「どうかされましたか、こんな所に座り込んで。具合でも悪いのですかな?」


 かけられた声に後ろを振り向くと、一人男性が立っていた。強面の顔には僅かな笑みが浮かんでいる。作業着の上には着首掛けの名札が見えており、そこには『店長 葬間そうま』と書かれている。どうやらこの店の店長のようだ。

 店長はニコニコとはしていたものの、影姫の姿を見ると少し顔が強張ったように感じた。そして、怪しげな視線で俺達を舐めるように見回し、俺の鞄から顔を覗かせていた奇妙な器に気が付いた様で、不思議そうに声を上げた。


「おや、それは昨日陣野さんにお売りした……一体どういう……」


 そんな店長を見て、俺と影姫は顔をあわせる。とりあえずは店長に差し支えのない内容で説明をする事にした。

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