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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
5/613

1-0-3.私が思う疑問【■■■■】

最終更新日:2025/2/25

 丁度、一ヶ月前のことだった――その冷たい記憶が、今も私の胸に重くのしかかる。一人の女生徒が、霧雨学園の校舎の屋上から、血を撒き散らすように無残に落ちた。


 学校の屋上は立入禁止となっており、内側から固く南京錠なんきんじょうで封じられていたはずだ。でも、何か――いや、誰かによって、職員室に厳重に保管されていた鍵が、静かに、まるで呪われた手によって持ち出され、屋上への扉が開かれていたらしい。

飛び降りた女生徒が鍵を持ち出して開けたのではないかという話もあった。状況から見て誰もがそう思うだろう。でも、私はそう思わなかった――彼女一人でそんなことはできなかった気がして、冷たい戦慄が背筋を走る。


 女生徒――早苗は、屋上へと足を踏み出した。でも、本当に自分の意志で足を踏み出したのだろうか? 何か、得体の知れない力に引き寄せられたんじゃないか……いや、誰かにそそのかされたんじゃないか? それでも、飛び降りたのは間違いない――その無残な姿が、今も私の夢に焼き付いている。笑顔の早苗が、夢の中で何度も屋上から飛び降り、血を撒き散らす姿が、私を夜ごと追い詰めるのだ。誰にも止められず、引力に身を任せ飛び降りた彼女は無残な姿となり果てる。


 女生徒が飛び降りる前日まで南京錠はかかったままになっており、鍵も職員室に保管されているはずだった。だが、教員達はいつ鍵が無くなったか分からないと言う。なので、彼女がどうやって鍵を手に入れて屋上に出たのかはいまだに分かっていない。


 いや、分かっていないのだろうか……隠されているだけなのではないか? その真実が、冷たい闇に飲み込まれ、誰にも見えない場所に封じられているような気がしてならない。でも、それを知る者がいるのかどうかも――いや、知っているはずなのに、口を閉ざしている者がいるのではないか? その者の影が、どこかで私を監視しているような、背筋が凍る感覚がする。


 私は自分も責任の一端を感じ、出来る限りの範囲でこの事件ともいえる事故を調べた。しかし……。


 家に届けられる地方の新聞には隅の方に小さな記事が一つだけ。学校側も一応は記者会見をしたものの、テレビやネットの報道はほぼ無いに等しかった。少しだけ地方局のテレビで流れた映像では、学園側の見解では『いじめなどなかった、進路や私生活のことで悩んでいた』そんな当たり障りのない、テンプレートの様などこかで聞いた事のある典型的な内容だった。集まった記者が責める訳でもない、学園側が悲痛な面持ちで謝罪するわけでもない、人形を並べて声を当てただけのような素っ気無い会見だった。


 私を含め、目撃した生徒たちは恐怖に震え、口をつぐんだ。自殺した少女――早苗の遺書もなかったから、学園の見解が真実だと、みんなが信じてしまった。でも、私には分かる――あの無気味な静けさ、隠された真実が、どこかで私を監視しているような錯覚がして、夜も眠れなくなっている。


 でも、クラスメイトであった者達はみんな知っている。いや、クラスメイトだけじゃない。学年の生徒は皆知っていただろう。教師も知っている者が何人もいたはずだ。


 虐めはあった。


 皆、死んだ女生徒の次の標的にされるのが嫌だから、マスコミの取材が来ても、学園側から調査が入っても何も喋らない。


 いじめグループのリーダー格の女生徒は地方でも有力な議員の娘だった。恐らく揉み消されたのだろう。地方議員である父親の手によって。


 しばらくは学年もクラスも、これまでとは違うどんよりとした雰囲気ふんいきに包まれていたが、自殺があったのが年度末と言う事もあり、春休みを挟んで以前の喧騒けんそうを取り戻すのに、さほど時間はかからなかった。


 まるでそんな事はなかったと言わんばかりに、皆の話題からは一人の女生徒の自殺の事が上がる事はなくなっていった。


 そして、この女生徒――早苗の自殺を皮切りに、霧雨学園周辺で起きた複数の事件や事故が、黒い霧のように立ち昇り、その真相が解き明かされていくとは、誰もが思いもしなかった――でも、どこかで、冷たく不気味な何かが、私たちを待っているような予感がしていた。


 私自身も、あの様な形で巻き込まれ、あんな結末を迎えるなんて思いもしなかった。


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