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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-14-3.知らない事実【陣野卓磨】

「おうわっ!?」


 意識と視界が元に戻りまず目に入ったのは、同じローテーブルを囲み座っている鴫野の姿であった。柴島先生に借りた写真をまだしっかりと見れていない為、屍霊の姿のまま現れており、突然目に入ったその姿に驚いてしまった。正直、生身の屍霊の姿は何度見ても慣れるものではない。

 影姫はそんな俺の姿にきょとんとしている。


「何だ、目が冷めたと思ったら急に驚いて。卓磨が呼び出したんじゃないのか?」


 俺はこの奇妙な器の記憶を見ていただけで、鴫野を呼び出した覚えなど一切ない。

 言葉もなく鴫野の方に視線を向けつつも首を横に振る。


「てっきり私は卓磨が呼び出したのかと……卓磨が記憶を読みに入ったと同時くらいに月紅石とあっちの机に置いてある腕時計が少し光りだして鴫野が出てきたんだ。まぁ、出てきたのは構わんのだが、ずっと俯いたまま黙っているがな」


 影姫も俺と同じく鴫野の方に視線を移す。すると、俯いたまま動かなかった鴫野が若干顔を上げると、声が聞こえてきた。


「ねぇ、陣野君、今の……何……」


 ボソボソと呟くように俺にかけられる質問。

 その声から感じ取れるのは、明らかに機嫌がいいという風ではいという感情であった。


「今の、って……今俺が見てた記憶か? 鴫野にも見えてたのか……?」


「うん……」


 影姫は一人何のことか分からず無表情に俺の顔に視線を戻した。

 今、俺が見ていたのは、明らかに鴫野の両親だ。母親の顔は以前に見たことがある。という事は夫婦喧嘩。

 俺が見た場に鴫野自身はいなかったが、彼女としても知っている事実ではないのだろうか。


「ねぇ、私のクソ親父が浮気して、それでお母さんが体調崩して……違うかったのかな。私の思い込みだったのかな……」


 鴫野の声が俺に向けられるが、俺はそこまで詳しい事を知っている訳ではない。

 しかし、父親の最後の台詞を思い出すに、鴫野が言っている事が事実と少し異なるのではないかと感じた。


「私もあの写真は見せてもらったんだけど、話はお母さんからしか聞いてなかったから……話聞いてからはずっとお父さんの事無視してたし……」


 鴫野のその言葉を聞いて影姫も口を開く。


「卓磨、どういう記憶を見たのか説明してくれないか。物に導かれて記憶を見たのなら、今後もしくは今出現しているであろう屍霊に関係する記憶かも知れん」


 そう言われ、俺は一つ頷くと、今見た記憶を出来るだけ細かく影姫に説明した。それを無言で聞く影姫と鴫野。屍霊の顔という事ではっきりとは分からないものの、俺の話を改めて聞いて鴫野の表情が少し暗くなった様に感じた。


「なるほど……しかし鴫野家に関する屍霊の事案はもう終わっている。なので一つの疑問が湧き上がってくる。なぜ今更そんな記憶を、という事だ。鴫野の父親が屍霊になったと考える事も出来なくはないが……うーむ……鴫野、この器に見覚えはあるのか?」


 器を指差す影姫にそう言われて、むき出した大きな目で器を見つめる鴫野。


「うん……ある。それ、お母さんが大事にしてた器。新婚旅行の旅先で入った骨董屋で一目惚れして買った民芸品だって聞いたことある。かわった器だったからそれは覚えてて……お母さんは大事にしてたみたいだけど、父親は特には……そういった物にも無関心だったと思うし、触ってるのも見た事ない」


「ふむ、そうなると、ますます父親が屍霊に、と言う線は薄いように感じるな……ますますわからん。卓磨が自発的に記憶を見に行った訳じゃないのか?」


 自発的に、か。思い出すと俺の父さんはそういう事が出来ていた気がする。だが、俺は今まで自分からアクセスをかけて物の記憶を見に行った事はない。

 いつも最初は突然に訪れ、意識を奪われていく。最近は一度感じれば見るタイミングを調整できる様にはなったが、それでも何も感じなかった物を自分から見に行くという事はした事がない。


「俺は……何もしてないな。でも、俺や鴫野が記憶を見せられたって事は、何かに関係があるんじゃないかとは思うけど……うーん、分からんな」


 そう言ってチラッと鴫野のほうを見るも、鴫野は再び顔を俯けて黙り込んでしまっていた。


「なぁ、鴫野。鴫野は……」


 そう言って心当たりがないか聞こうとするも、鴫野は小さく首を横に振りスゥッと消えてしまった。


「自殺する原因となった事実……本人が知っていた事実とは違う、知らない事実を突きつけられたんだ。しばらくそっとしておいてやれ」


「あ、ああ……」


「あと、近辺で鴫野の両親が関係すると思われる事件が起こっていないい以上、私達でこれ以上考えても分からんのは明白だ。後で蓮美か七瀬にでも何か起こっていないか聞いてみるか……卓磨は、その器をどこで手に入れたのか千太郎に確認しておけ。多分、千太郎だろう」


 影姫はそう言うと、自分のスマホを手に取り部屋を出て行った。


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