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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-14-1.奇妙な器【陣野卓磨】

「ふぅ……疲れた……」


 部屋に入ると鞄を投げ出し、制服のままゴロリとベッドに身を任せる。


「帰ったか。遅かったな」


 影姫は呑気にテーブルの上に置かれている煎餅をバリボリと齧っていた。

 もう少しで夕飯だというのに、いつもこんなに食っていて何で太らないんだコイツは。


「遅かったじゃないよ。影姫もたまには部活に顔を出せよ。最近全然来てないだろ」


「もうあの部屋にある本も大体読んだからな。行く理由がない」


 そう言って煎餅を租借する影姫の片手には珍しく漫画本が持たれている。本だったらなんでもいいのだろうか。だがよく見ると、それは普通の漫画雑誌の単行本ではない様で表紙がやけに分厚い。目を凝らして本のタイトルを見ると〝わかりやすい! 漫画で見る日本の歴史~大正時代編~〟と書いてある。

 昔俺の部屋にこのような本があったような気もするが、随分前にどこかへ仕舞い込んだ気がする。どこからこんな本を引っ張り出してきたんだコイツは。


「そんなに疲れた顔をして、部活で何かあったのか? 疲れるような部活でもないと思うのだが」


「ああ、紅谷と金田が、夏の合宿の行き先について揉めてて……もうなんか、部室にいるだけで気疲れしたよ。部長は止めようとしないしさ。自分が面倒臭いからって、俺の目の前に百円玉置いて無言で俺に顎で指図するんだぜ?」


「あの部、合宿なんぞあるのか。その二人の仲裁が出来るような他の部員はいなかったのか?」


「江里は今年度に入ってから相変わらず来てないみたいだし、同学年は後俺だけだからな。……後輩の蓮美や長原ににやらせる訳にもいかないだろ」


「よくあんな根暗の塊とヒステリックの塊の仲裁ができたな。……あの部、今何人いるんだ? 来てたり来てなかったりでよく分からんのだが」


「あー、俺も詳しくは把握してないけど……三年は部長だけで、二年は俺と影姫合わせて五人かな。一年は……蓮美と長原ともう一人、天道さんかな。去年の合宿前はもうちょっといたらしいけど。みんな影姫も知ってるだろ。それ以外は今のところいないみたいだぞ……よっと」


 そう言って身を起こし、自分も煎餅を一枚頂こうと菓子入れに手を伸ばす。

 すると目に入ったのは、菓子を入れていたその器だった。

 細かい気味の悪い模様が施された年代物の木彫りの器。今まで家の中では見た事のない器だった。

 それは所々傷がついており、新品と言う風には見えなかった。


「なんだこれ、また爺さんが骨董屋かどっかで買ってきたのか?」


 普段ならさほど気になる物でもないだろう。だが、この器に関しては奇妙な模様が刻まれているせいもあってか何故か妙に気になった。


「知らん。台所に置いてあったんだ。卓磨が知らないならそうなんじゃないのか。燕がこんな物を買うとは思えんし」


 影姫は興味もなさそうに漫画を読みつつ、相変わらず煎餅に手を伸ばしている。

 だが、その器に興味を引かれた俺が、器を取り上げたせいで、影姫の手はわさわさと宙で煎餅を探す事になってしまった。

 それに気がついた影姫が漫画から俺に視線を写し鋭い目つきで睨んできた。


「おい、私に喧嘩を売っているのか? 卓磨の戦闘訓練がてらに買ってやってもいいんだぞ?」


「い、いや、そう言う訳じゃ……」


 背筋も凍るその視線に恐怖を覚え、器をテーブルに戻そうとしたその時だった。いつもの感覚が頭に襲い掛かってくる。視界がゆっくりと白みだし、目の前の景色が消えていく。


「おい、卓磨、どうし……」


 そんな俺にかけられた影姫の声も次第に小さくなっていく。


 今は大丈夫だ。記憶を見ることで周りに心配をかけるような人物もいない。

 何の記憶かは分からないが、このまま見てしまおう。器の記憶……。

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