5-12-2.過ぎる不安【七瀬厳八】
「これは……」
「今起きてる遺体損壊と似てる部分が多いっすね。まさかとは思いますが……」
九条も俺と同じ考えであるようだ。それを見て鬼塚が口を開く。
「私もそう思います。現在広域捜査に指定されている損壊持ち去りの連続殺人事件……その犯人が、九年前に例の小屋に放置されていた二人の容疑者を殺害したのではないかと。今起こっている事件は模倣犯である可能性も捨て切れませんが、やり口や尻尾をつかませない手際よさからしても、同一犯である可能性が限りなく高いと思います」
「九年越しに活動を再開したって所か? クソ野郎が……。鬼塚、一応当時の捜査資料も引っ張り出しとけ……」
「はい、わかりました」
そこまで言って、俺もふと思い出した事があった。先ほども会話の中で上がっていた児童連続殺害事件の事だ。
あの事件の被害者も確か、損壊は酷かったが死因としては胸部を刃物で刺されて殺されていたはずだ。俺は捜査に加わっていなかったので詳しく資料は見ていなかったが、まさか……。
「おい、ついでに同時期の児童連続殺害の方の捜査資料も出しとけ」
その言葉に鬼塚は俺がその資料で何を調べたいかを理解したのか、一つ頷き踵を返すと部屋を後にした。
「先輩、それ見てどうするんすか?」
「もしかしたら、そっちの事件でも持ち去りがあったかもしれんだろ。同時期の車谷の指が持ち去られてるんだ。可能性はゼロじゃない……。全部が繋がれば大事だぞ」
と、そんな話をしていると今度は内線の電話をしていた船井が、慌しくこちらに近寄ってきた。
「七瀬さん、例の損壊持ち去りと思われる通報がまた入ったそうです」
「何!? クソッ! またかよ……! 噂をしてれば何とやらだな。挽肉の方だけでもクソ忙しいってのに……! 次から次へとよ!」
「広域捜査とは言えウチの所轄内です。現場に向かいますんで急いで準備してください」
「おう、わかった。場所はどこだ」
「場所は……」
重々しい雰囲気の中、船井が手元にあるメモを見ながら住所を読み上げる。現場はもちろんウチの所轄内である。月道商店街を抜けて少し行った所にあるマンションだ。
「わかった。俺は九条と現場に向かう。おい、九条。まだ弁当途中だろうが……」
そう言って九条の方を見ると、先程までと違い様子がおかしい。表情が固く、宙を見る視線が動揺を隠せていない。
「ど、どうした……」
「まさか……嘘でしょ……いや……はい、行きましょう……急いで行きましょう……」
九条はそう言うと、ゆっくりとドアの方に歩き出した。
船井から住所を聞いた後から様子が少しおかしい。しかし、今それに関して九条を問い詰めている場合ではない。少し心配ではあるが、俺は急いで準備をして現場へ向かう事にした。




