5-11-2.職員室へ【陣野卓磨】
「もぅ、こういう時の便利使いしかしないんだから……何を聞きに行くか知らないけどさっ」
昼休憩、廊下を歩く俺の横でふくれているのは霙月。職員室へ行くのに付いて来てもらっているのだ。
なぜ霙月かと言うと、俺の知る中で職員室へ行っても奇異の目で見られない一番の人物だと思ったからだ。成績もそこそこ良く、部活動も大方真面目に行っている。霙月は教師達からの信用も高い……はずだ。
それに、影姫を連れて行くよりも、俺がどもってしまった時に霙月の方がナイスサポートをしてくれると思ったからだ。適材適所で連れて行く人物を選べるというところを考えると、やはり裏方としてサポートしてくれる人は何人かいた方がいいのかもしれない。
「悪いな。俺だけで行くと……ほら、わかるだろ? この間、桐生と職員室行った時も周りの目が痛く感じたんだ。俺はあの教師達の出来損ないを見下す様な視線が嫌なんだよ」
気まずそうにそう言う俺に対して霙月は残念そうに溜息を付く。
「それは日頃の行いだよ……。ちゃんと授業起きてまじめーに学園生活送ってれば職員室に行ったって後ろめたい気持ちなんかこれっぽっちも起こらないんだから。それに、視線をそう感じるのは気のせいでしょ。確かに視線が冷めてる先生も多いけど、流石に見下したりなんかは……」
そう言いつつ教師達の顔を思い浮かべているのだろう。少し視線が上ずっている。
数秒考えるとハッとした顔になり考えるのをやめた。どうやら、そういう視線をしそうな教師に思い当たったのだろう。
多分、死んだ小枝だ。
「その割りに霙月もあんま乗り気じゃなさそうだな」
「それはそうだよ。そうは言っても、そんなに大した用事もないのに職員室に行くのってドキドキるすし。柴島先生に会いに行くなら紅谷さんや金田さんのほうが良かったんじゃないの? ほら、ウチのクラスだったら江里君もオカ研でしょ? 同じオカ研だしその方が自然な気が……」
「いや、あいつらは、その……俺はそんなに仲がいいって訳でもないし、知らないからよ」
その俺の言葉を聞いて霙月ははっとした顔になる。どうやら俺が何が言いたいか察した様であった。
「あ、その、それってもしかして……この間の?」
「ああ。手が刃物になってた方の女の子いただろ。……その、霙月を襲った奴……。アイツが柴島先生の同級生なんだよ。だから、顔の再確認に写真をな。ちょっと前に柴島先生に呼び出された時に、机の上に当事の写真飾ってあるの見たから」
「そうなんだ……大まかな話ししか聞いてなかったから知らなかったな……柴島先生は、あの……鴫野さんだっけ? が、また出てこれるようになったこと知ってるの?」
「いや、知らない。それに、言うつもりも会わせるつもりもないよ。桐生にもな。伊刈や鴫野も同じ気持ちだと思う……二人にとっては、伊刈や鴫野の事はもう解決してるんだ。いついなくなるかも分からない屍霊の二人に、想いの強い人達を合わせて、また別れが惜しくなるなんて事になったら、それはそれで辛いだろ」
「うん、そう、だね……でも、何か寂しいね。近くにいるのに会えないなんて」
「仕方ないさ。もう、住む世界が違うんだから」
そんな事を話していると職員室の前に辿り着いていた。
ドアに手をかけようとするも、やはりどこか感じる重々しい空気に躊躇してしまう。
「もう、もたもたしてたら昼休み終わっちゃうよ?」
霙月はそう言うと、何のためらいもなく職員室のドアを開ける。ガラガラという音と共に扉はスライドし、中の光景が見えてきた。昼休みであるせいか、中にいる教師はいつもより少ない。そんななか、こちらに背を向ける、赤いジャージを羽織ったポニーテール姿の女性の姿が目に入った。
「失礼します」
霙月はそういい一礼すると職員室へと足を踏み入れる。
そしてそれに俺も続き、後ろ手にドアを閉めた。




