5-9-2.父親の手記②【陣野卓磨】
霧竜守影姫に関する記述、簡単に抜粋するとこう書かれていた。
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○影姫の素材は地球上には存在しない、いわゆる〝魔法の力〟が含まれている玉鋼に似た金属である。
○柄巻に使われている紐の素材は人毛、恐らく影姫自身の毛髪を利用した物だと思われる。
○柄や刀身の一部組織からは人的な細胞等が検出されており、その素材からも人間による修復は不可能と思われる。
○影姫曰くその金属は〝妖鉄〟と呼ばれており、異界の妖の刀匠が生成した金属であるとの事である。
○前述した通り人間による修復は不可能である為、刃が欠けたり砕けたりすれば自己の修復を待つ他に手段は無い。今の所こちらの世界に於いて妖鉄を扱える妖の刀匠は確認されてはいないが、存在するのであれば修復が行えるのかもしれない。
○刀は一本であるが二本存在する。一つは霧竜守影姫としての刀。一つは毒刀・鬼蜘蛛としての刀。影姫曰くは、現在は〝厄災の呪い〟により魂に融合し一つとなってしまっているとのことだった。
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ここは前に影姫に聞いた事があるのも含まれている部分だ。
次は、影姫の月紅石能力についてか……。
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影姫が持つ〝毒刀・鬼蜘蛛〟に関して。
現在影姫はこちらの世界に逃げ込んできた〝厄災〟の呪いの一端として鬼蜘蛛を常時体内に融合封印されている状態である。その状態を解除するには、契約を行った一番近しい者が月紅石の力を解放し、厄災の力を中和し影姫の持つ月紅石の力を共鳴させる必要がある。
幸い私が持つ月紅石は召喚師リーゼロッテ・グリムより譲り受けた、異界より持ち込まれた純粋な月紅石である。その共鳴力は高く、私が月紅石の力を発動させ、真なる力を解放している間は影姫が体内より鬼蜘蛛を取り出し戦う事が出来る。
主な戦闘方法は……
(中略)
ただし、毒刀・鬼蜘蛛は影姫本来の月紅石能力ではない。
影姫が扱う月紅石の能力は別に存在する。
その月紅石の能力の名は神刀・ス
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これ以降は、先程影姫に破られてしまった為に読めなくなってしまった。
俺の月紅石……確か箱に父さんの名前がかかれてたな……と言う事は、そういうことか。俺が月紅石を使いこなせるようにならないと、影姫も毒蜘蛛を再現して満足に闘う事が出来ない。
しかしちょっと待てよ……この文章の感じだと父さんは昔、影姫と一緒に屍霊と戦っていたのだろうか。
となると、以前の契約者は父さんだったという事になる。
そういう風にも読み取れるんだが……。
少し顔を振り向かせて影姫に視線を向けるも、影姫はいつもの定位置に座り、何処か物思いに耽ったような顔をしてボーっとしている。
今までの影姫の言動からしても父さんを知っているという風には見えない。となると、父さんと居た時間の記憶だけがすっぽりと抜けている、もしくは、父さんの記憶だけが抜き取られ頭が別の作られた記憶で補填しているという事になるのだろうか。
このノートは一部報告書らしく、屍霊と戦った際の特徴等は記載されているものの、戦った時の状況や誰が戦ったなどの情報は記載されていない。だから、父さんと影姫がどういった関係であったのかという核心的情報は得られなかったが、恐らく俺が思うには、やはり俺と同じ様な関係であったのではないかと思う。
そして少し前のページ。影姫のページにも少し記載されていたが、俺が持っている月紅石についてだ。
そこにはこう書かれていた。
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私が持つ月紅石は私が異世界に飛ばされた際にリーゼロッテ・グリムより譲り受けた純粋な月紅石である。後世の者が私の月紅石を扱う事があるかもしれないという事を考え、ここに記し残しておく。
私の月紅石の能力は固定化されており、発現できる者が扱うと、記憶と屍霊の遺物をリンクさせ武具を具現化させる。例えば、屍霊である〝三群の蟲観音〟の記憶から武具を具現化させると、蝿・蚊・ゴキブリを無数に呼び出す壷となった。〝こっくりさん〟を武具として具現化させると、強い占いの効果を発するウィジャ板になった。だが、それを最大限の能力を引き出して使えるかどうかは別の話であるようだ。私にこの二つは扱いきれなかった。
武具はある条件を満たすと使用が出来なくなるようだ。ただ、その条件はそれぞれの屍霊により異なっている様で、はっきりとは分からない。
恐らく、召喚師であるリーゼロッテの頭髪等を数珠の材料として使われている為に、召還と言うその影響を受けているのだろう。
記憶からの召喚。私はそう思っているが、数珠に使用されている他の石からも不思議な力を感じる。リーゼロッテが死んでしまった為、今はもう聞く事が出来ないが、もしかしたら、私が倒した屍霊の一部が記憶と共に封じられているのかもしれない。そして、封じられた屍霊そのものも何らかの形で呼び出せる事もあるのかもしれない。だが、私にはそれが出来ていない。
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屍霊そのものを……それはまさに、俺が今出来ていることだ。逆に武具として具現化させるというのは一度も出来ていない。俺と父さんは何かが違うのだろうか。
この手記によると、どうやら父さんは屍霊の記憶とこの月紅石をリンクさせて、〝屍霊武器〟という物を具現化させて戦っていたらしい。それともう一つ気になる記載が。『異世界に飛ばされた』と言う記述だ。どういう意味だろうか。
俺にはまだ知らない事が沢山ある。
今思えば、俺は父さんや母さんについて何も知らない。この先少しずつでも知っていく事になるのだろうが、影姫を見ると、いかにも今は話しかけるなと言う空気を醸し出しており声をかけるのは憚られた。同時に、しばらく少しそっとしておいてやろうという気持ちになった。
その後のページには遭遇した屍霊を固体別に分析したデータなどが書き記してある。
俺が遭遇した事のある屍霊も一体書いてあった。赤マントだ。
とりあえず全てを読みたいという気持ちはあるのだが、元々活字が苦手な事もあり、読んでいると眠くなってくる。
読むべき重要であると思われる部分は一通り読んだと思うので、とりあえず今はここまでにしておこう。




