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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-9-1.父親の手記①【陣野卓磨】

 ペラペラとページをめくる。

 今、俺が見ているのは古びた一冊のノート。


「何を見ているんだ?」


 俺が珍しく真剣に、びっしりと文字の書かれたノートを見ているのを不思議がって影姫が声をかけてきた。ノートには几帳面かつ丁寧な字で、図や絵を交えて色々と書いてある。


「ああ、学校から帰ってきたら爺さんに渡されたんだけど、父さんが生前、屍霊や自分の月紅石についてまとめたノートらしい。なんでも、どっかに報告する為にまとめてた物らしいんだけど、その前に父さん死んじまってそのままになってたみたいで。蔵に保管してあった父さんの私物を整理してたら出てきたんだとさ」


「ほう……私も見せてもらっていいか?」


「ああ」


 興味津々な影姫にノートを渡す。

 開いた一ページ目には〝屍霊に関する対策と傾向等についての報告書 下書き 等〟と書かれている。その下には〝自身の月紅石についてメモ〟とも書かれていた。


 表紙の下には〝調査 陣野静磨じんのしずま・黒刃影子・白鞘琴子〟と書かれている。父さんの名前はともかく二人目は知らない名前だ。読み方もよく分からない。三人目の名前は……何かどこかで聞いたような気もする。


 影姫はノートを受け取るとペラペラとページをめくりながら、所々目を留めては流し読みをする。

 いつも本を読んでいるせいか、流石に俺と違って読むのが早い。


「私は屍霊とは戦う事が第一で、その成り立ちや素性までは興味がないと言うのもあって調べたりはしなかったのだが……よく調べてあるな。屍霊は怨念の第一とする標的を殺した時、その力が増して行動の範囲も広くなっていくと書いてあるな」


「ああ。それは俺も思い当たる所があるな。時系列から言うと、目玉狩りが御厨みくりやを含む最初の被害者三人を殺した時は全部部屋は狭い部屋一つだったけど、次の洲崎すざきを殺したのが屋外、で、俺を襲った後は食事処や学校の部室棟なんていうでかい範囲を隔離したりしてたしな。両面鬼人も蓮美はすみの話によると最初は人をむやみやたらに殺さなかったらしいけど、議員を一人殺してから暴走が大きくなり始めたみたいだったし」


「となるとあの時、目玉狩りに天正寺てんしょうじ桐生きりゅうが殺られていたら、暴走して巨大化した力でこちらが目玉狩りに殺られていたかもしれないな」


「かもな」


「それと、元々呪いの家の地縛霊で近辺でしか殺人を行っていなかった赤いチャンチャンコが、警察署を襲撃したのも何かきっかけがあったのかもしれないな……」


「俺は隣家が怪しいと思ってる。知らず知らずのうちに鴫野静香しぎのしずかが恨みを持つ関係者が隣家に住んでいたんじゃないかってな。だってあの家だけおかしいだろ? 推測によると〝男女二人の時に襲われる〟って推測だったんだ。いくら家の中で別々に行動していたからって親子と娘息子を惨殺するか? って思うわけよ。両親で男女、娘息子で男女って考えるのも無理があると思うんだ」


「ふむ……どれも推測の域を出ないのは確かだが、ここにこうまとめてある以上はそうなのかも知れんな」


 影姫はノートに書いてある事に目を走らせながら頷いている。

 そして、ふとあるページでピタリと捲るのを止め、じっくりと読み出した。


「何か興味深い事でも書いてあったか?」


「いや……」


 聞いているのか聞いていないのか分からないような返事を返しながら真剣な眼差しで目を走らせて読みふける影姫。そして一通り読み終えると、そのページを破り取りパタンとノートを閉じてこちらに手渡してきた。


「お、おい、何すんだよ」


 慌ててノートを受け取り影姫を見ると、破り取ったページをクシャクシャに丸めて握り潰した。


「こんな場所に書き記して他に漏れでもしたら私が困るからな。このページは私が処分しておく」


「そこに何がかいてあったんだよ。俺まだそこまで読んでないんだけど」


「それは卓磨の父親……静磨だったか? が書いたと言っていたな」


「ああ、それがどうかしたのか?」


 俺の質問に対して、しばし沈黙をしていたが、ゆっくりと口を開く。


「最後の方だ。私の月紅石の能力についてこと細かく書かれていた。ここまで知っているのは中頭なかがみだけだと思っていたが、卓磨の父親は何者なのだ? 中頭がそれに関してそこまで詳細な情報を他に漏らすとは思えんし……」


「え?」


 その言葉を聞いてノートの最後の方のページを見てみる。詳細が書かれたページは影姫が破りとってしまったのでもう読めないが、表題が書かれたページと説明文の前の方のページは残っていた。

 そこには、『影姫の月紅石能力〝毒刀・鬼蜘蛛〟等について』と記載されていた。

 破られたページの残った切れ端にも目が行ったが、『神刀・ス』と言う文字で切れてしまっており、何が書いてあったのかは全く読み取れなかった。


「影姫の能力……鬼蜘蛛の事が書いてあったのか」


「自分の知らない人間が、こうまで自分の事を調べ上げているというのはあまり気分のいいものではないな」


「影姫、父さんの事は本当に知らないのか?」


 今までの言動からは知らないと判断するのが妥当なのだが、どこか引っかかるものを感じる。


「知らない、と言えば嘘になる事もあるのかもしれないな。何分抜けている記憶も多い。その間に出会った人物である可能性もある。だが、名前を聞いた所で顔も姿も思い浮かべれんのだ」


 影姫はこう言っているが、今までの経緯からしても間違いなく影姫は父さんと知り合いなのだろう。

 だが俺がそれを説明しようとした所で、知っている情報が少なすぎて説明しきれない。


「それと、私が知っている自分の能力は、あくまで自分だけで使う時の状態だけだからな。今の様に厄災の呪いで制限されている状態での使用方法は中頭もそこまで知らないはずだ。そういう状態での私の刀の使用方法がそこに書いてあるという事は、会ったことがある可能性は高いな」


「そうか……でも、俺も知っておいた方がいいんじゃないのか? 今後一緒に戦ったりする事もあるかもしれないんだから」


「だからと言って個々の月紅石の能力は書き記して残しておくようなものではない。毒蜘蛛に関しては中頭から聞いているだろうから構わんが……期がくれば私から直接説明する。覚えておくべき事は私よりも契約者である卓磨の方に重きがあるからな。私と契約がある以上、今後役に立つ時もあるだろう」


「ああ……」


 期とはいつの事だろうか。どの道今の影姫は毒蜘蛛を使えない状況だそうだから、今すぐに詳細に教えて貰わないといけないなんて事はないのだが……。

 そう思いつつ机に向き直りノートを広げる。

 さっきから読んではいたのだが、正直なかなか頭に入ってこない。だが、読んでおかなければならないのだろう。少しでも記憶にとどめておけば、いざと言う時に何か思い出せるかもしれない。


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