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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-6-3.課長の想い【七瀬厳八】

「なるほど、な。で、お前らはその存在を今でも信じているのか? 見間違いだったと思わないのか?」


 俺達の話を聞きながら、指でコツコツと机を叩く。

 その様子は、俺達の話を信じているのか信じていないのかが全く分からなかった。ただ、話の中で陣野と影姫の名前が出てきた時から、その様子が少し変わっていた。


「信じるとか信じないとか、それ以前の話です。先程も話しました通り、『食事処・迅』に於いて発生した十七人殺しで目玉狩りの姿をはっきりと見ました。その後、交戦もありましたし……。それだけではありません。貴駒峠の事故を引き起こしていた存在の姿も……決して見間違いなどでは……」


「課長、僕もその姿は確認しています。首切り事件の犯人も間違いなく屍霊と呼ばれる人ならざる存在の仕業でした。僕は実際にその存在に襲われ足を怪我しましたし」


 二人の話を聞いて、課長が押し黙る。静まり返った部屋の空気がとても重く感じる。

 時計の針が刻む音だけが耳に入り、時間が経つのがとても長く感じられた。


「二人は十二年前に起きた児童誘拐殺傷事件を覚えているか。今捜査してる児童連続殺害事件とは別の奴だ」


 課長はこちらに視線を向けることもなく話を始めた。だが、声は俺達に向けて放たれている様には聞こえず、どこか話をするのを躊躇っているかのように感じられる。


「はい、私は捜査に加わっていませんでしたが……犯人は捕まったと聞いていますが」


「奴は……誘拐殺人事態は間違いなく起こしているのだが……全てが奴の仕業ではない。奴が起こした犯罪は一件だ。他は……俺はあの真犯人を知っているのだ……」


「なっ……」


 課長の口から放たれた言葉には驚きを隠せなかった。現在服役中の受刑者が被った罪の多くはは冤罪だというのか。

 真犯人を知っていてなぜ検挙しないのか。冤罪事件がバレてマスコミに騒がれるのが嫌なのか。しかし、現在服役中の受刑者も誘拐殺人の確たる証拠があると認識している。

 となると、証拠の捏造か……。幾つか起きた誘拐殺人の中でも服役中の受刑者と真犯人が起こした二パターンがあるというわけか……。


「なぜ、俺が誰にもそれを言っていないか分かるか」


「なぜです、真犯人が検挙されれば気持ち的に少しでも救われる人がいるでしょう!?」


「……犯人は二メートル五十センチ程もある長身の女、長い髪に麦藁帽をかぶり、真っ白なワンピースを着た女の様な姿だった……」


 そんな長身の女いるのか……?

 仮にいたとしたらすぐに見つかるだろう。そこまで分かっていてなぜ確保しないんだ。

 だが、ここからが違った。その説明内容殻想像できる姿が、とても人間には聞こえなかったからだ。


「目はドス黒く淀んで窪んでおり、奥の見えない漆黒の空間が見える口が不安を誘う、顔も人のそれとは思えない顔をしていた。口を開けば『ボッ』という不安と恐怖を駆り立てられる音を発す。それを、彼等……陣野静磨と影姫は『八尺様』と呼んでいた」


 課長の口から知っている名前が出てきた。

 だが、卓磨ではない。静磨。彼の親族だろうか。影姫はそのまま影姫だ。しかし、十二年も前に課長は影姫と会ったと言うのだろうか。今、影姫は高校二年生のはずだ。十二年前と言ったら五歳かそこらだろう。


「俺はその八尺様が子供を連れ去る所を偶然見てしまったのだ。だが、そのあまりにも恐ろしい顔と、頭に響いてくる『ボッ』という声とも言えない音に、心の底から恐怖して、俺は連れ去られる子供を目の前にして動く事ができなかった。そして、動けない俺をあざ笑うかの様に、アイツはこちらを一瞬一瞥すると、目の前で子供と共に消えたんだ。姿を隠したとかではなく、文字通り忽然と消えたのだ。パッとな」


「それは……もしかして」


「ああ、その後に陣野に教えられたのだが、それがお前らの言う屍霊と言う存在だった。だが、俺は自分の目で見てしまっても、陣野のその話を聞いてもまだ信じられなかった。彼等に手を貸す事もなく何らかの人為的なトリックだと思い込み独自の捜査を続けていた。そして、捜査が行き詰っていた疲れもあって精神的におかしくなってしまったのかと思い、保身に走って屍霊に関する事は署や捜査本部には一切報告しなかったのだ。元々宗教じみた話は嫌いだった事もあったしな……」


 課長の言葉の端々からは、後悔の念が読み取れる。


「八尺様は封印されたと聞いたが、俺が陣野の話を少しでも信じて上に報告して警察が何かしらの対応をしていれば、その後に同事件で亡くなった子供達も何人か救えたかもしれない。そう思うと……お前らには同じ様な苦しみは味わって欲しくないんだ」


「しかし、上にそんな話をしても信じてもらえるかどうか……私だってそういう思いに苛まれて報告を怠っていたわけですし……」


「いや……」


 その後に俺達が課長から聞いた話は信じられない事であった。

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