5-6-2.捜査一課長と【七瀬厳八】
「お前等、俺に報告していない事はないか」
署の会議室。いるのは捜査一課長である権藤課長と俺と九条。あの後、勇んで部屋を出ようとした俺達は課長に呼び止められた。そして会議室に連れて来られたのだ。
部屋には重苦しい空気が漂っている。
報告してない事……。思い当たる節はある。もちろん屍霊に関する事だ。だが、コレに関しては説明しても信じてもらえるとはとても思えず、九条にも口止めをしてある。
「いえ、我々は何も……なぜそう思われるんですか」
窓から外を眺める権藤課長は、こちらに振り向く事もなく空を見上げる。
「船井から聞いたぞ。損壊持ち去り事件が起こり始めの時、その捜査の合間に貴駒峠の交通事故に関して独断で何か調べていたそうだな。死んだ柳川も一緒になって」
「それは……」
船井の奴め……余計な事を。
あのドラレコの映像を見て何か不審に思ったのか。あの場は急いでいたのでそこまで気が回らなかったが、知らない人間がいる場所で見るべきだったな。
「鑑識の備品が壊れた時もそうだ。上は溝口のあの始末書で通したみたいだが、無理がありすぎるぞ」
無言の圧力が俺に覆いかぶさってくる。
一刻も早く長瀬の所へと行き聴取を行いたいと言うのに、現場に出てない警部はいい気な物だ。俺らを引き止めるという事が捜査の遅れに繋がるというのは権藤課長も分かっているだろうに。
「何を仰りたいんですか……。我々も急いで捜査に戻らねばなりません。現場は一刻一秒を争うんですよ。私等に言いたい事があるなら手短にお願いできますか」
二人が出す思い空気に気圧されてか、九条も黙り込んでいる。
「七瀬、どうせ報告しても信じてもらえないなどと思って自身の保身に走り、人が大勢死ぬこともあるんだぞ」
「どういう……事ですか」
未だとぼける俺に業を煮やしたのか、課長は振り返ると勢いよくテーブルへと手を突いた。その不意をつかれた大きな音に、少し身を震わせてしまう。
「目玉狩り事件、首切り事件、赤マントの出没、それと貴駒峠の事故! お前達が必要以上にコソコソと嗅ぎ回ってきたこの四つの案件、同じ関わっている共通のモノがあるだろうと聞いているんだ! 惚けるのもいい加減にしろ!」
課長の怒号が部屋に響き渡った。
羅列された事件の名前を聞き、既に全てを見透かされているようで言葉が出てこなかった。
「先輩……もう……」
九条の声が小声で横から話しかけてきた。わかっている。もう隠し通せない。
「わかってる。九条、お前は黙ってろ」
そう、コレは俺の責任だ。九条に口止めしたのも俺なのだ。
そう言って前へ一歩踏み出し、腰を折り頭を下げる。
「申し訳ありませんでした! 自分の勝手な判断で報告を怠っていた事項がいくつかあります。九条が黙っていたのも私の指示です。全責任は私にあります!」
俺の謝罪の言葉に、部屋に沈黙が訪れる。もう、言い逃れは出来ない。
内容が内容だったが、勝手な判断で報告しなかったのは俺だ。どんな処分でも受けざるを得ない。
恐らく始末書一枚で済むような話ではないだろう。
そして、十秒ほどの沈黙の後、課長が口を開いた。
「頭を上げろ。謝罪ならいつでもできる。さっさと報告していなかった事を報告しろ」
そう言って席に着く課長。そして、俺達も同じく席に着く様、促される。
もう、逃げる事は出来ない。嘘偽りなく、全てを話すしかない。




