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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-4-1.警察官連続殺人事件【柳川幹夫】

「じゃあ後はレッカー呼んで、車どけてもらっておいて」


 七瀬警部補から連絡を受けて二週間程経っているが、七瀬警部補の言った通り、貴駒峠の事故はあれからほぼ無くなったという状況だ。起きてもガードレールへの軽微な衝突などで、人命に関わる大きな事故は起こっていない。

 だが、霧雨署所轄内での交通事故は貴駒峠だけで起きている訳ではない。だから早々減る物ではない。

 夜も明けそうで、宿直の時間ももう少しで終わりというところで連絡が入り、現場へ駆けつけて来ている次第である。

 今、単独で起こした自損事故の処理が終わり、同行していた長瀬に最後の指示を出す。


「柳川さん、とりあえず処理は終わりましたので、後は任せて署に戻りましょう」


「ああ、そうするか。しかし、どういう運転をしたらここまで酷くぶつけられるもんかね。朝っぱらから勘弁して欲しいよ」


 目の前の車は、歩道に乗り上げて街路樹にぶち当たり、車体前方が大きく凹んでバンパーも外れてしまっている。

 運転手の呼気検査もしたが酒気帯びではなかった。薬物の反応も見られないし、だとしたら居眠りか何かと思ったが、本人は否定しているのでそれも現状よく分からない。後日に車についていたドライブレコーダーを確認するしかなさそうだ。


「まぁ、本人は否定してますが、居眠りでしょうね。他に考えられません」


「そうだな……。まぁ、ドラレコ見ればハッキリするだろう。運転手含めて大した怪我人も出てないし、焦って答えを出す必要もないさ。さ、戻ろう」


 そう言って、あらかた書類を書き終えてパトカーの方に戻ろうとした時だった。背後から妙な声が聞こえてきた。


〝オマエ警察官ダナ〟


 低くくぐもった男の声だ。妙に頭に響く奇妙な声に、背筋に悪寒が走り少し驚き後ろを振り向く。だが、私のすぐ後ろは建物が建っており、建物の塀と塀の間に少しの隙間はあるものの、それも十数センチメートル程で人が入れるような隙間ではない。


「おい、長瀬。何か言ったか?」


 長瀬に声をかけるも、顔にハテナを浮かべつつ「私がですか?」と逆に聞き返されてしまった。見た所、彼には今の声が聞こえていないようであった。

 確かに『お前警察官だな』と聞こえた気がしたのだが、空耳だったのだろうか。


「そういえば柳川さん、例の事件の話聞きましたか」


「例の事件?」


「ほら、ウチの所轄だけでも経理課の笹田と、捜査二課の峰岸巡査長と……後誰だったかな……そうそう、警備部の南雲警部補だったかな」


「あぁ……」


 その名前を聞いて彼が何を言わんとしているのかは理解できた。

 聞きましたかどころの話ではない話なのだ。警察官が標的にされているという事もあり、公にはされていないが今では府警の警察官全員が知る所になっている事件だろう。捜査一課のほうも、広域での合同捜査と言う事でかなり慌しくなっており、七瀬警部補にも貴駒峠での事件解決の礼を言えずじまいである。


 そして、例の事件と言うのは、最近、霧雨市や隣の門宮市などの近辺の市町で警察官が連続で殺害されているのだ。今の所聞いているのでは合計で十人ほどられているらしい。それも一週間ほどと言う短期間にだ。

 殺害現場を目撃した者はまだいないらしいが、どれも遺体が頭以外ぐちゃぐちゃの肉片で、細い隙間に埋め込まれていたらしいのだ。


「警察官ばかり狙った連続殺人、私も怖いですよ。特にこんな人気のない朝方とか、襲われたらと思うと……」


「しかし、どれも一人の所を狙われたと聞いている。今は私と長瀬で二人いるんだし、仮に犯人が襲ってきても対処できるさ」


「そうだといいんですが。中には発砲の形跡もあったのに殺された人もいるとか」


 長瀬の不安な顔が目に入る。不安といえば私も不安なのだ。

 聞いている話だと、殺された警官達に共通点はないらしい。無差別に警察官を狙って殺害しているのだ。私も、いつ襲われるか分からないと思うと、不安が胸にこみ上げてくる。


「威嚇射撃で発砲したんじゃないのか。まぁ、とりあえず私等は署に戻ろ……」


〝オマエラ警察官ダナ〟


 私が長瀬をパトカーへと促すと、また先程の声が私の言葉を遮るように聞こえてきた。再び聞こえてきた声に慌てて辺りを見回す。今度は長瀬にも聞こえたのか、長瀬も不思議そうに辺りを見回している。


「柳川さん……」


「しっ……」


 静かにするよう促し、慎重に周りを確認する。

 すると目に入る先程の隙間。隙間……。隙間。


 じっと見ていると、その朝日の光も入り込めない暗い隙間に、ギョロリと光る目が見え隠れしていた。

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