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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-3-3.屍霊の姿【陣野卓磨】

「何、何で呼んだの? 何か危ない事でもあった?」


 部屋を見回しつつ先に言葉を発したのは鴫野の方だった。

 友惟と霙月は、そんな鴫野と視線を合わせまいと必死に目を逸らしているが、鴫野はそんな二人に近づくと背後に回りこみ、二人の間に顔を突っ込んで面白そうに顔を覗きこんでいる。


「い、いや……ちょっと呼び出せるかどうかの実験を……」


 俺がそう言うと鴫野はバッと俺の方に顔を向けた。大きな口から洩れる冷たい吐息がテーブルの反対側の此方まで飛んでくる。

 そして、すごく怖い。テーブルを挟んでいる距離とはいえ、屍霊の顔面をこんなに近くでじっと見たのは初めてだったので、思わず後ずさってしまう。


「はぁ!? アンタ、不必要な時に呼び出して、肝心な時に体力不足で呼べなくなったらどうすんのよ? 体力管理でどうにかできるもんなのかどうかはしらないけどさ、もっとご利用は計画的に……」


「いや、ちょっと待て、俺もその言わんとしてる事はわからないでもないが、まず呼び出す前提条件に確信を持っておかないとだめだろっ? だからこうして……」


 俺がそう鴫野に対して言い訳をしていると、今度は背後に突っ立っていた伊刈が口を開いた。


「陣野君、この前、もっと私の元の顔を覚えててって言ったよね? 言ったよね?」


 今度は、友惟の方をじっと見ていた伊刈が、これ見よがしに後ろから顔を覗かせ近づけてきた。無数の目が俺の方を恨めしそうに見つめている。確かに言われた気もするが、それがどうしたと言うのだ。しかし、口には出せないが気持ち悪い事この上ない……。


「な、それが何か……」


「何かじゃないよ。私達の姿は陣野君の記憶に左右されるんだから、もっとちゃんと覚えててくれないと、いつもこんな顔で出てくる羽目になるのよ? 石の中ではほぼ眠ったような状態でどんな時に呼び出されるか分からないから……私、こんな姿をあまり他の人に見られたくないわ……」


「あ、いや、それについてはゴメン……」


 俺がそう言うと伊刈は肩を落とし溜息をひとつついた。

 そんな伊刈の口から漏れた冷たい吐息がまた俺にふりかかる。

 何か呪いをかけられている様で妙に背筋が寒くなった。


「もうやだ……何もないならもう消える……」


 伊刈はそう言うと、スゥーッっと姿を消して消えてしまった。


「そーよそーよ、陣野君。もっと女心って物を理解しないとっ。そんなこっちゃモテないよ?」


 鴫野は俺を咎める様にそう言うと、デカイ刃の付いた人差し指を上に立てて指を振る。指が振られる度、吊るし電灯に当たりそうになりヒヤッとする。


「す、すまん、気をつける……」


「まー、何もないなら私も消えるわ。正直、呼び出されてると何かしんどいのよね。こんな姿だからか知らないけど、何か常に全力出してるような感覚で。あー、だから、ついでに私の元の姿も覚えれるようだったら覚えといてねっ。柴島が写真かなんかもってるでしょうから。頼んまっ」


 そう言うと、鴫野も鋭い歯をガチガチと鳴らしながらスゥーッと消えてしまった。二人が消えたと同時に、一気に疲労感が襲い掛かってきた。やはり鴫野が言った通り、屍霊を呼び出すのは体力を消耗するようだ。

 しかし、何だというのだ、呼び出すのは考えに考えてこんなに苦労したというのに、消えるのはあいつ等の意思なのか。コレは二人の機嫌を損ねたら俺は大変な事になってしまうかもしれない……。


「た、卓磨たっくん、今のって……」


 二人が消えたのを確認すると、霙月が恐る恐る聞いてきた。

 よほど怖かったのか、まだ顔色が優れない。


「ああ、前に話した、俺が以前に対峙した屍霊だ。元は……三月に自殺した伊刈早苗と、十二年前に呪いの家で自殺した鴫野静香って人だ。鴫野は柴島先生の同級生でな」


「伊刈さんって……ホントにあの伊刈さんなの?」


「確かに面影はあったような気はするが……マジなのか?」


 質問してきた霙月はもちろんの事、隣にいる友惟も驚きを隠せないようだった。事前に話はしていたが、実際に見るとでは大きく違うかったらしい。


「ああ……でも、二人とももう人を殺しまくる屍霊なんかじゃない。生前の記憶を取り戻して、今は俺を助けてくれてるんだ。だから、怖がる事は……ないと思う」


 俺の言葉を聞いても、どこかまだ安心できないのか、お互いを見る友惟と霙月の表情は複雑だ。

 それは無理もない。二人とも〝屍霊〟と言う存在に襲われ殺されかけているのだ。口で信じてくれと一方的に言い放った所でとても信じきれるものではないだろう。

 そんな状況を見て影姫が口を開いた。


「まぁ、大丈夫だろう。今の所は害はないと私も判断している」


「でもよ……」


 影姫の言葉を聞いても二人の不安の色は隠せない。


「人を殺してしまったのは過去の事だから気にするなとは声を大にしては言えないが、それにも何かしら理由がある。何より、卓磨の能力で呼び出した屍霊だ。卓磨の命令で動くとも聞いているし、今は信じるしかあるまい。それより、一つ気になるのだが」


 影姫は机の上に置かれた物に視線を移し、次の質問に移る。

 視線の先に置かれているのは屍霊の遺物。そのなかでも柏木の巾着袋に目が行っていた。


「一度に呼び出せる屍霊は二体までということになるのか? そうだとすると、二体が消えた今ならターボババアを呼び出せるんじゃないのか?」


 確かに影姫の言う事も一理ある。ターボババアこと柏木鶴ゑさんはまだ一度も呼び出せた事がない。


「ああ、ちょっとやってみるわ」


 そう言いスマホと腕時計を横に避けると、巾着袋だけに意識を集中し、先程と同じ様に試してみる。


「駄目そうだな」


 影姫の言葉に、巾着袋の方を見ていた友惟や霙月も俺の方に視線を向ける。


「いや、もうちょっと……」


 だが、その後どれだけ同じ様に願っても祈っても、月紅石が巾着袋に反応する事はなかった。

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