5-3-1.寝覚めの朝【陣野卓磨】
「おい、卓磨、起きろ。何時だと思っているんだ」
影姫の声が聞こえる。
何時……。何時だ。今日は日曜日だぞ。
昨日は遅くまで久々にゲームで夜更かししてしまったのだ。もうちょっと寝かせてくれ。
そう思いつつ布団の中で身を転がし聞こえないフリをする。
「おい、起きないと霙月が目覚めの接吻をする事になるぞ」
「ちょ、ちょっと! 何でそんな事になるの!?」
……?
からかう様な影姫の声とは別の、すごく慌てた別の声も聞こえる。燕の声ではない。
霙月? 今霙月って言ったような気がする。え、なぜ霙月が?
「童話の世界ではお決まりのパターンじゃないか。そうしたら確実に起きるだろう?」
「童話だったら大概逆でしょ!? それに、起きるとか起きないとかじゃなくてっ!」
二人の言い合う声が耳に飛び込んでくる。この声は確かに霙月だ。
「嫌なのか?」
「い、嫌とかそう言うのじゃなくて、何でってっ」
まだ寝たりない重い瞼を何とか開けながら、声の聞こえる方を見る。
すると、目に入ったのは影姫と霙月の姿であった。なぜ霙月が俺の部屋に。
けだるい身体を何とか起こして布団から這い出る。
「ああ、おはよう……なんで霙月がここにいるんだ?」
俺の問いに二人が答える事はない。ぼやける視界に映る二人の顔は何処か紅潮している気がする。
布団から抜け出し、ベッドに腰掛ける俺の姿を見て、ただただ目を丸くして顔を真っ赤にし、こちらを見つめているのだ。
どうしたのだろうか。頭髪に変な寝癖でも付いただろうか。
「 」
霙月が声もなく、手で顔を覆い隠して部屋を出て行ってしまった。
寝起きなせいもあって、状況がよく理解できない。
「どうしたんだ?」
影姫に問いかけると、影姫も不機嫌そうに俺から視線を逸らしてしまった。
何が何だか分からない。
「どうしたもこうしたもない。さっさと服を着ろ。寝ながら布団の中で何をしてたんだ貴様は」
そう言って影姫も部屋を後にすると、すごい勢いでドアを閉めて行ってしまった。
言われて自分の姿を確認すると、全裸であった。
なぜ俺は全裸で寝ていたんだ……っていうよりまずい。一気に意識がハッキリとしてきた。同時に全身から血の気が引いていく。コレは恐怖だ。年頃の女子に布団から全裸で這い出す姿を見られたのだ。
絶対二人に妙な勘違いをされている。このまま何の言い訳も出来ずに終わってしまったらと思うと、いてもたってもいられなくなった。
「お、おい! 違うんだ! コレは……っ!」
慌てて声を上げるが、時は既に遅し。当然、既に二人の姿はない。
そして目に入ったのは、部屋の隅で漫画を読んでいた友惟の姿であった。
「卓磨、予定がある前日の自家発電もほどほどにしとけよ……」
「ち、ちげーよ! 見ろ! 布団どこも汚れてねぇだろ!?」
「分かってるって。分かってるからとりあえずパンツ履け」
ニヤニヤとこちらを見る友惟に向かって、そう言って全裸のまま布団を慌てて持ち上げて見せる。
だが、一番説明すべき女性陣はもういない。女性陣二人への説明は面倒臭そうだ……。




