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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-2-1.突然の死【陣野卓磨】

 目の前に転がる長い毛の生えた丸い物体。それを見て俺は思考能力を失いかけていた。


「お、おい……」


 横にあるベンチに腰掛ける、マネキンのように動かない体と、地面に転がる頭を交互に見比べる。

 まるで生気のないその視線はと目が合うと、一気に気分が悪くなってきた。


「嘘、嘘だろ? 何の冗談だ……?」


 先程まで俺の横で笑って、怒って、悲しんでいた人物。

 留学するから最後の思い出にって言ってたじゃないか。

 将来世界で人を助ける仕事につきたいって言ってたじゃないか……。

 他に誘える人がいないからって俺に……。何がどうなっているんだ……。


 胸には鋭利な刃物で刺された思われる傷痕があり、そこを中心にして服に血が滲んでいる。切断された首からの出血はあまりない。

 血が出ていないせいなのか、それが作り物に見えてしまう。


「天正寺、お前、コレは悪い冗談だぞ……? どこだ? どこに隠れてるんだ? こんなリアルな人形……金かけて作ったって……素人の俺を騙したって……趣味悪いぞ……」


 だが、俺のその声に反応する人間はいない。辺りを見回しても人影は見えないし、気配すらない。市内の公園。休日だというのに閑散としていて人っ子一人見当たらない。


 晴れ渡っていた空に陰りが見え出した。ポツリ、ポツリと雨が降り出す。


 人間がやったのか?

 それとも屍霊か?


 なんで、何で突然こんな事に……。

 俺が傍にいたのに……トイレに行く為に席を外したものの数分の間に……。


 目の前に転がるモノが、天正寺の遺体であるとはっきりと認識をし終えると、天正寺が手渡してくれたハンカチが手から零れ落ちた。


『ちゃんと洗ってから返しなさいよ。大事な物だから……』


 天正寺が最後に俺に言った言葉が脳裏に蘇ってきた。

 洗って……誰に返すんだよ……。


〝ざまぁみろ……クズがいい気味よ……〟


 伊刈の声が聞こえてきた。

 突然の声に横を見ると、所々透明がかった伊刈が立っていた。


「い、伊刈、なんで……」


〝陣野君が呼んだんじゃないの? だとしたら、陣野君が無意識に呼んだのかもね〟


 天正寺の転がる頭を見つめる伊刈の視線は冷たかった。

 その冷ややかな視線には、どこか怒りの感情も感じられる。


「ざ、ざまぁみろって……伊刈、お前……まさか……」


〝なーんて冗談。私が殺したとでも思った?〟


 俺の言おうとした言葉に被せる様に、伊刈の言葉が放たれる。だが、伊刈の声は小さくまるで俺に向けて言っている様には聞こえない。棒読みで放たれたその小さな言葉は酷く冷淡に感じられた。


「悪い冗談は……」


〝って、冗談なんて本気で言うと思った? あの時は、千登勢ちゃんがいた手前、ああ言ったけどね……私がこの女を本当に許したと思ってた?〟


「だって、あの時お前、言ってたじゃないか」


〝陣野君も見てたでしょ……。回りの人は仕方ないと思う……私だって同じ立場だったら関わらなかったと思うから。でもこの女は違う。死んで当然な事をしてきたのよ。因果応報、生きて生きて生き地獄を味わえばいいとも思ってたけど、こうなるとあっけないよね……〟


「じゃあやっぱりお前が……!?」


 伊刈がゆっくりとこちらへ振り向く。その表情は無表情で、光の宿らない曇った目で俺を見る視線に恐怖を感じた。

 桐生に写真を見せてもらって元の顔をしっかりと覚えて普通の顔で呼び出せる様になったはずなのに、屍霊そのものの顔であった時の顔よりも恐怖を感じた。


〝殺したのは私じゃないわ……だって私は陣野君が呼び出してくれないと出て来れないもの。別の何かがったんじゃないの……さっさと警察呼べば〟


 伊刈はそう言い捨てると、俺から視線を外してスゥッと紅い光と共にその姿を消してしまった。


 その冷たい言葉を最後に、一人残された俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

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