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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第五章(第一部最終章)・すべての真実はヤミの中に
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5-1-1.抑えられぬ衝動

 最近抑えられない衝動がある。もう何年も抑えてきた衝動だ。何年になるのか……。

 思い返すと、もうあれから九年になるのか。確か、最後に殺したのは幼い女の子であった。


 胸をナイフで一突きした、あの時の感触が忘れられない。遺体をバラバラに切断し、最高の飾り付けが完成した時の達成感が忘れられない。何より、人を殺す度に一人の魂をこの腐った世界から救い出せたという使命感を満たせたと言うのが忘れられない。


 なぜ自分が殺されるかも分からず死んでいった作品達の顔を思い出すと、様々な感情が蘇ってくる。また造りたい。また救いたい。

 悪いのは自分ではない。この感情を思い出させた奴等が悪いのだ。自身はずっと昔の自分を閉じ込めて大人しくしてきたのだ。


 昔は料理をするのに肉を捏ねているだけでも思い出したものだが、最近は忘れかけていた。


 目玉狩り事件、首切り事件、市役所の大規模テロ事件……。

 あの時嗅いだ匂いが忘れられない。あの時見た光景が忘れられない。

 身近で起こった大きな事件が、胸の内に閉じ込めていた扉の鍵を開けてしまった。忘れかけていた遠い思い出が漏れ出てきてしまった。

 幾つもの事件に絡んで復讐は成就されたが、自身の使命はまだ終わっていない。


 そしてこの指輪。赤い石の付いたとても綺麗な指輪だ。偶然が重なり手に入れる事の出来たこの不思議な指輪。あの男はもう死んだのだろうか。


 死んでいるだろうな。腕を切断されてあの出血量だ。生きている方がおかしい。だが、それもどうでもいい事。赤の他人が道端でのたれ死のうがどうしようが関係ない。死んだのなら、これもいらない物になっていたのだろう。こんな素晴らしい物が、もっとも有効活用できる人間の手に渡った事に感謝をしてもらいたい。


 最初はこの紅い石の使い方が分からなかったが、ずっと肌身離さず持ち歩いていると、ある事に気が付いた。石が感情に反応して輝きを発するという事を。

 この石が自分に対して反応するのは、人を救いたいと思う時、人を殺したいと思う時。

 自身を高揚させるような紅く黒いオーラが自分に流れてくるのが分かる。


 そんな想いを胸に、石を手にして意識を集中すると、石の付いた指輪は瞬時に姿を変える。


 ある時は、切れ味鋭く肉をいとも簡単に切り裂くナイフ。またある時は対象の意識だけを斬り、気を失わせる不思議なナイフ。

 まるで使用している者の心の中を見透かしたように、その時その時で用途に合った形状に変化してくれる。そんなナイフを『魂救済の(サルヴェイション)殺人短剣(・ナイフ)』と名付けた。

 他にも別の形状はあるのだろうか。しかし、使用するのも制約や制限もあるようだ。また、いろいろと試してどんな効果があるのか、どんな時にどの形状が使えるのかを確認しないといけない。

 この石の力を手に入れてから、随分と作業が楽になった。だが、行動は慎重に、計画は綿密に。昔の様に、自分と言う存在を消して事を進めていかねばならない。


 ナイフを手にして見ていると体が熱くなる。感情が高ぶってくる。だが、それを抑えれる精神を持っているのでさほど苦にはならない。


 そんな事を考えつつ外からの光を反射する紅いナイフを眺めていると、インターフォンが鳴った。誰だろうか。タイミングの悪い人だ。こんなに人を助けたいと言う気持ちに頭が支配されている時に来るなんて。前言撤回だ。目の前に人が現れるとなると、我慢できそうにない。


 いつでも事を起こせる準備は出来ている。救済しよう。この醜い世界から魂を解放すると言う事だけで、救済になる。

 そして、色々な衝動の捌け口になってもらおう。相手は誰でも構わない。見知らぬどこぞの集金人であっても、仲のいい友達であっても、職場の同僚であっても、それが例え大切な家族であっても……。

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