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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-12-1.姉と二人で【烏丸友惟】

最終更新日:2025/3/10

「朝のニュース、知ってる所が映ってたねぇ……」


 登校中の通学路、特に話すこともなく無言で歩いていた中、そう話を切り出してきたのは姉の霙月みつきだ。

 朝のニュースとは、目玉狩り事件のことを指している。昨日も新たな被害者が出たばかりで、しかもその被害者が元クラスメイトだった。元クラスメイトが被害者となったのは、御厨緑みくりやみどりに続いてこれで二人目となる。


 洲崎すざきは昨日、桐生に何か問い詰めているようだったが、様子がおかしかったと振り返る。思いつめた表情というよりは、どこか焦っているように見えた。もしかすると、目玉狩り事件について何か知っていたのかもしれないと考える。

 たとえ嫌いな奴だったとしても、立ち去る前に事情を聞いておけば、助かっていた可能性もあったのではないか。そう思うと、胸がモヤモヤと重くなる。


「ああ、しかも被害者がな……昨日俺さ、帰りに校門出た所で洲崎に会ったんだよ」


「そうなの?」


 霙月が少し驚いたように顔をこちらに向けた。


「桐生さんと何か揉めてたみたいなんだけど、様子がおかしいっちゃあおかしかった。何か切羽詰ってるって言うか」


 俺がそう言うと、霙月は視線を前に戻し、何かを思い出すような素振りを見せた。


千登勢ちーちゃんは昨日私も喫茶店で会ったけど、そんな感じ全然なかったなぁ。いつも通りって言うか……まぁ、よそよそしいのは最近いつものことだから心配ないと思うけど」


「……桐生さんはどうだかわかんねぇけど、洲崎は事件に関して何か知ってたんじゃないかって思うわ」


「洲崎さんが? なんで?」


「え? なんでって……ほら、御厨絡みで何かだな……う~ん、なんとなくだよ。面倒臭ぇな。いちいちなんでとか聞くなよ。年頃の男の心の中を詮索しようとすんな」


「えー! 友惟ともただが意味深な事言うからじゃん! そんな適当な事ばっか言ってるから女の子にもてないんだよ? 見た目はそこそこ良い癖に頭からっぽ!」


「双子ならそういう所くらい察しろよ。って、な、何でそこまで言われにゃならんのだっ」


「友惟が考えもなしに適当なこと言うからでしょー。もーっ」


 霙月がむくれているのが分かる。再び少しの間、沈黙が続いた。正直、思うことは色々とあるが、コイツに話したところでどうしようもないと判断した。


「にしても怖いよね。自分の住んでる街でこんな事件が起きてるって。身近に被害者がいるだけに、他人事として見れないってのもあるし……」


「てか、被害者の人って殆ど身近な人だな。小枝に御厨に洲崎。違うのは後一人くらいか?」


「……早く犯人捕まってくれればいいのにね」


「だなぁ」


 晴れ渡る青々とした空を見上げ、俺たちの横を元気に走りながら通り過ぎる小学生たちの喧騒を聞いていると、とてもこんな事件がこの街で起きているとは思えない雰囲気だった。

 だが、身近に被害者がいることを思い出すだけで、一気に現実に引き戻される感覚が襲う。事件の重みが胸にのしかかる。


 そんなことを考えながら歩いていると、目的の場所に到着した。目的の場所と言っても、まだ学園の校門ではない。

 友人である陣野卓磨じんのたくまの家の前だ。

 昨日はクラス替えの発表に胸をときめかせ、一刻も早く知りたいという欲求に逆らえず、姿の見えない卓磨を置いて先に学校へ行ってしまったが、いつもは一緒に登校している。


 今日は家の門の前で待つことにした。

 陣野卓磨は俺の幼馴染であり、一番仲の良い友人でもある。卓磨はいつもギリギリまで家から出てこないため、こうやって待つのがいつものパターンだ。


 普段、姉の霙月は部活の朝練があるため、ほとんど一緒に登校することはない。

 俺が起きて歯を磨く頃には、霙月はもう家を出ているのが普通だ。だが、今日はなぜか一緒に登校している。朝練がなかったのだろうかと疑問が浮かぶ。


「そういや今日は何でこの時間なの? いつももっと早い時間に家を出てるのに」


 数分の間、無言でボーッと待っているのも退屈なので、気になったことを霙月に聞いてみた。

 一緒に登校するのはかなり久しぶりだし、家の中では自室にこもることが多いため、こういう会話をする機会もあまりない。たまには姉弟としてのスキンシップを図ってみようと思ったのだ。


「あー、目覚ましの電池なくなっちゃっててさー、時計が止まってて目が覚めたらこの時間だったの。だから今日の朝練は間に合わないかなーと思って、もういいやって感じで」


 照れくさそうに、そして残念そうにうなだれる霙月。

 運動ができなくて残念という気持ちは、帰宅部の俺には理解しがたい。確かに体を動かせば気持ちいいと感じることはあるが、率先して動かそうとは思わない。俺はそういうタイプだと自覚している。


「へー、そうなん。スマホのアラームとか使わないの?」


「スマホは夜中に鳴って中途半端に目が覚めるのが嫌だから、寝る時は電源切ってるの」


「ふーん」


 マナーモードにすればいいのではないかとも思ったが、機械オンチの姉にそんな話をすれば、操作方法を聞かれて面倒なことになるのが目に見えている。思いついた言葉をグッと飲み込み、聞いてみたものの、気の利いた返事が思い浮かばず、軽い返事で返すしかなかった。家でも会話があればいつもこんな感じだ。どちらが話しかけても、特に会話が続くことはない。



 そのまま少し待っていると、家から卓磨の爺さんと見たことのない女の子が家から出てきた。女の子は色の交じりがない綺麗な白髪で、今では珍しい袴姿の着物である。

 どこか他人を寄せ付けないといったそのすまし顔は、家の前でボーっと立っている俺達を見つけるや否や、不審人物を見るかの如く視線を投げかけてきた。


 そのまま少し待っていると、家から卓磨の祖父と、見知らぬ女の子が一緒に出てきた。女の子は色の交じりがない綺麗な白髪で、今では珍しい袴姿の着物を身にまとっている。

 どこか他人を寄せ付けないようなすまし顔が印象的で、家の前でボーッと立っている俺たちを見つけるや否や、不審人物を見るかのような視線を投げかけてきた。

 その視線は冷たく、一瞬背筋が凍るような感覚が走った。彼女の視線には、どこか異質な気配が漂っているように感じられた。

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