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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-99-66.閑話?

「あら、あらららら。それはよかった、そして残念残念。……引き取り手がいないって風の噂で聞いたから、遠路遥々取りに来たのに。一応、本人には入館チケットは送ったけど、もう随分時間が経っちゃってるし絶対取りに来ないと思ったのになぁ」


「そうよー、つい数時間前だわ。プレゼントの相手の人がここに来てね。当事渡せなかった事情も知って、私感極まって泣いちゃったわよ」


 閉館時間直前に博物館を訪れて来た、目の前にいる白髪のロングヘアーの女性が、かぶっていた麦藁帽子を取りながら、残念そうにがっくりと項垂れる。


「無料とはいえ、私の初の商用作品だったし、色々と使い道もあるから、まだ残ってたら貰おうかなって思ってたのになぁ~。でも、きちんと相手に届いたのなら、それはそれで嬉しいですね! 今日がチケットの期限だったし、私が先に来てしまっていたらその人に贈れなかった事になるし、これぞまさに神のお導き~っていうところですか? なんにせよ、十三年も置いておいてくれた博物館に感謝ですねっ」


「いやまぁ、物が残ってたのは偶然も偶然だったんだけどね」


 そう苦笑いしつつ話していると、掃除道具を片付け終わり帰り支度を済ませた長さんがこちらへと寄って来た。


「よぉ、琴子ちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ。去年の夏以来か。いつ戻ったんだい? 元気そうで」


 気さくに声をかける長さん。この人物、白鞘琴子しらさやことこは私にとっても長さんにとっても、昔からの知り合いである。博物館に勤めていて白鞘家と縁がある私達は、琴子が幼い頃から知っているのだ。


阿武隈あぶくまさんも長宗我部ちょうそがべさんも元気そうで何よりですっ。今朝、十時五十六分に、久しぶりにタクシーに乗って火徒潟町に足を踏み入れましたっ♪」


「ははっ、相変わらず細けぇなぁ。そういうのは大体でいいんだよ、大体で。で、何か家に用事があって戻って来たのかい?」


 久しぶりに会い、孫を見るかのように嬉しそうな顔を見せる長さん。琴子は気さくで明るく、博物館の従業員達からの人気も高い。ただ、放浪癖があるらしく、大学を卒業してからは火徒潟町に戻ってくる事も少なくなっていた。

 年に数回、今日のように日帰りでフラッと立ち寄る程度である。


「いいえー。博物館に用事があったんですよ。ウチはどろどろして辛気臭くて、あんまり戻りたくなくて。霧雨市にちょっと滞在してるんですけど、思い出した事があってちょこっとね。でも、ちょっと久しぶりの街中散策してる間にすれ違いになって、無駄足に終わっちゃいましたけど」


「博物館に用事? ってぇとー……人形の依頼か何かあったっけか?」


「長さん、例のプレゼントの人形だよ。アレ取りに来たんだってさ」


 手で人形の大きさをジェスチャーで伝えると長さんもそれが何か気が付いたようで、ポンと手をうつ。


「あぁ、アレか! すんでの差だったなぁ。プレゼント相手に渡しちまったよ。でも、プレゼントされた女の子よ、涙流して喜んでたよ」


「そ、そんなに喜んでたんですか? あんな奇妙な……もとい、可愛いデザインの人形で」


 琴子がキョトンとした顔で驚いている。まぁ、何も事情を知らなければそうなるかもしれない。

 そんな琴子に、昼にあった出来事を説明すると、目を潤ませ私の話を最後まで大人しく頷きながら聞いていた。


「それは……よかったです。お父様が断っていたから、本当に私が勝手に引き受けていいものかどうかすごく悩みましたから。それだけ喜んでもらえると人形師冥利に尽きますね」


「んだよなぁ。ウチの孫もプレゼント上げたら、一回くらいアレくらい喜んで欲しいもんだわ。この間なんてよ……」


 そんな他愛の無いの無い会話を十分くらいして、話が途切れた所で琴子が思い出したかのように、手に持っていた紙袋を少し持ち上げる。


「あ、そうそう、館長いますか? お土産も買ってきたし、もう閉館時間ですし、一緒にお茶でもどうかしらと」


 ニコニコと笑う琴子が手に持つ紙袋には、霧雨市で少し有名な『月道商店街つきみ屋』の文字が。中身は恐らく大福餅だろう。館長の大好物である。


「ああ、上にいると思うから上がってくといいよ。あ、でも、寝てるかもしれないからノックは忘れずにね」


「ありがとうございます。あ、お二人にもあるのでどーぞ」


 そう言い琴子は紙袋から小さな包みを二つ取り出すと、私と長さんにそれぞれ手渡す。と同時に、漂ってくる仄かな甘い香り。予想通り大福餅だった。


 礼を言おうと前を見ると琴子の姿は既に受付の前から消えていた。そして聞こえてくる鼻歌。


「悪~い地蔵はおっしおきよ~♪ でーもでもでも失敗失敗♪ 急いで急いで失敗失敗♪ いつ来る?いつ出る?魔法の蜘蛛さん♪ はたして君はきづくかな~♪ らーんらんるー らんらんる~♪」


 謎の鼻歌を歌いながら琴子が階段を上がっていく。館内に響くその歌声は、聞いていると背中に寒気が走り、楽しそうな歌声とは裏腹に、妙に暗く怖く感じた。

 昔から時折妙な歌を歌う事はあったが、こんな感じ方をしたのは初めてであった。


END?

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