4-33-2.二つの頭【霧竜守影姫】
停まったバスに駆け寄ると、『ブピー』という気の抜けるようなブザー音と共にバスのドアが開く。
それを待っていたかのように何人かの人が外へ飛び出してきた。
「お兄ちゃん!」
「お祖母ちゃん!!」
見覚えがある二人、隣のクラスの蘇我智佐子と、市役所の時にいた柏木澪だ。
それぞれが誰かを探し辺りを見回している。この状況で誰かを探しているとなると、首無しライダーとターボババアか。
続いて卓磨と烏丸姉弟がバスから降りてきた。
「助かった……ギリギリでブレーキ効いてよかったぜ……」
そう言う烏丸弟を含めて、三人とも顔が疲弊しきっている。
「大丈夫か? 何があった」
私がそう声をかけると、卓磨が私の存在に気がついて駆け寄ってきた。
顔面蒼白だ。結果以内で余程激しい戦闘があったのだろう。
「か、影姫! 何やってたんだよ!」
「何と言われても……私にも出来る事と出来ない事がある。なんにしても無事でよかった」
駆け寄り卓磨に事情を聞くと、まだ頭の中が整理できていないのもあってなのか、私が加勢に行けなかった事に対して憤慨しているようであった。
それから事情を聞いた。鴫野が卓磨の能力で味方として現れた事、首無しライダーが最初から意識を乗っ取られずに自分達を助けてくれていた事、ターボババアが記憶を取り戻してバスを停めようとしてくれていたと言う事、地蔵の化物の事。
「もう駄目かと思ったんだ……でも本当によかった。鴫野が出てきてくれなかったらマジで終わってた」
卓磨が安堵の溜息を付いている。一頻り私に説明を終えた事で、多少気持ちが落ち着いたのだろう。辺りを見回すが、鴫野の姿は既に何処にも見当たらない。
「そういや、首無しライダーと地蔵はどうなったんだ? ターボババアは?」
そう言って辺りを見回す卓磨を見て七瀬が近寄ってきた。
「蘇我啓太郎は爆発して消えたよ。地蔵と一緒にな。ったく……最後まで心配かけさせやがって……いちいち俺に礼なんて言わなくてもいいってのによ。あと、ターボババアも消えたよ。多分あの消え方じゃもう二度と出てこないんじゃないか? なぁ、影姫」
しみじみと言いながら、爆発のあった方向の上空を見つめ、真っ二つになった地蔵の頭の片割れと、井戸で発見した蘇我の頭部を見せる七瀬。
「ああ、二体とももう出て来ないだろう……屍霊の瘴気は全く感じない。同じく妖怪の気配もな」
それを聞き、七瀬の方を見ながら駆け寄ってくる蘇我。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
それに続いて柏木澪も後ろから駆け寄ってくる。
「な、七瀬さん……!」
「おう、智佐子ちゃんに澪ちゃん……このバスに乗ってたのか。無事でよかった」
どうやら七瀬は二人と顔なじみらしい。無事な二人の姿を見て安堵の表情を見せる。
私のいない所で全てが終わってしまった。今回の件は私の判断ミスも多々あった為に悔いが残る。地蔵くらいは自分の手で仕留めてやりたかったが、終わってしまったのならば仕方がない。
結果よければ全てよしと言う事で、反省は心の中に留めておこう……。




