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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-33-1.結界術式【七瀬厳八】

 すっかり暗くなった夜の闇の中、ちらほらと灯る切れかかった電灯に照らされ、なす術もなくトンネルを見つめて見守るしかない。

 こうまで何も出来ないと、もどかしいなんてものじゃない。苛立ちが募り、無意識に世話しなく足が動いてしまう。


「おい、影姫、本当に何も手立てはないのか? このままじゃ……」


「わかっている! 今、考えているんだ。声をかけ……」


 その時だった。トンネル入り口全体から黒い幕のような物が現れ、内側から押し出される様に徐々にそれが肥大化していく。


「な、なんだ!?」


 それを見て構える俺を含めた三人。そして続いて、黒い幕の一部がガラスのように割れて破れたかと思うと、青白い炎に包まれた巨大な物体が飛び出てきた。バイクにまたがったライダーと、それに引きずられる巨大な丸い物体。


〝七瀬さん、ありがとう〟


 声が聞こえてきた。その青白く燃えるバイクと物体が俺の横を通り過ぎる時に声が聞こえたのだ。それは間違いなく蘇我啓太郎の声だった。


「そ、蘇我……!」


 慌てて振り返り目で追うが、バイクは前輪を上げてウイリー走行したかと思うと、空き地のガードレールを足蹴にして、そのまま上空へと飛び上がった。そして、上空でみるみるうちに纏う炎が肥大化していく。


 影姫と九条もそれを目で追う。


「俺の体の中を流れるガソリンと、燃え上がった魂の炎でテメェを消し飛ばしてやるよ!!」


〝喰わせろオオオオオオオオオオオオオオオオ!〟


 誰もが無言で見守る中、上空へと飛び上がったバイクは、おぞましい叫び声を残して凄まじい爆音と共に爆散してしまった。

 今の声は確かに啓太郎の声だった。


 そして幾つか飛んでくる石の破片。その中には空き地に設置されていた地蔵の頭が真っ二つに割れた物もあった。


「お、おい、これは……」


 影姫の方を見ると、上空を見上げたままあっけにとられている。


「今のは地蔵と……首無しライダーか? 何がどうなっているんだ……?」


「蘇我が、蘇我が助けてくれたんだよ……」


 そう言って地蔵の頭に近づき拾おうとした次の瞬間、トンネル入り口周りのコンクリートに貼られた古い札から凄まじい光が発せられ、そこから光の糸が伸びて蜘蛛の糸のように広がるのが見えた。それが黒い幕の残りの部分を押さえ込んでいく。


「こ、これは屍霊瘴気抑制の物理結界術式……! 一体誰が!」


 それに気が付いた影姫も、振り向き驚きの声を上げている。


 だが、それでもじわじわと黒い幕の破れた部分が広がり、そこから何か、更に巨大な物体が飛び出そうとして来ているのが徐々に見えてきた。

 バスだ。飛び出そうとしているのは、幕に猛スピードで突っ込んでいるバスだ。


「ぎいいいいいいいいえええええええええええぴいいいいいいい!! んがあああああああ!!」


 同時に幕の破れた部分の中から凄まじい叫び声が聞こえてくる。

 その奇妙な踏ん張り声が大きくなるにつれ黒い幕は完全に破れいき、バスがその姿が露わにした。


 バスの前方には、凄まじい青黒い炎が噴射しながらバスを押し返そうとしている人物の姿が見え隠れしている。蜘蛛の糸とその人物の押し返しで、猛スピードで突っ込んでくるバスは徐々にそのスピードを落とす。


 その後、けたたましいブレーキ音と共に、伸びに伸びた蜘蛛の糸は、一本また一本と千切れて消えていき、バスが停車した。バスの前で支えていた人物はその後何も言葉を発することなく、役目を終えたと言わんばかりに光の粒子となって飛び散り消えてしまった。

 もう数秒止まるのが遅れていたらバスは車体ごと斜面下へまっ逆さまであっただろう。


「い、今のは……」


「地蔵にライダーが爆発したって事は、今消えたのはターボババアじゃないっすかね……」


「……なのか?」


 状況を理解しきれない俺達を差し置き、影姫はバスへと駆け寄る。俺もそれを見てその後に続いた。

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