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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-32-9.無駄無駄無駄【鴫野静香】

「アンタ、策があるってどんな策よっ!」


 未だ迫り来る無数の手。頭は私に一度斬られた事によって奥に引っ込んでしまった。

 まだ私を喰おうとしているのか、眼をギョロギョロと動かし、十指の刃を振り回すこちらの隙を伺っているように見える。


「ソイツは地蔵だ! 石の地蔵! 本体を粉々にフッ飛ばしちまえばもう戻れねぇだろ!」


「ふっ飛ばすってどうやって!」


 本体を壊せばいいってのは私だって分かる。あの歯を粉砕すればいいのだ。だけど鶴ゑさんが渾身の力を込めてはなった鉄拳ですら、表面に僅かに傷が付いた程度なのだ。たかがバット一本しか持っていないライダーに、あの歯が粉砕できるとは思えない。


「だからそれは俺に任せろつってんだろ! 俺はこの状態じゃバスの上なんてとても上がれねぇから何とか俺の手の届く距離まで引きずり落としてくれ!」


 無茶を言う。この無数の手をいなすので精一杯だと言うのに、そこから更にあのでかい頭をバスから下へ落とすなんて。


 だけど、鶴ゑさんもバスを停める為に頑張ってるんだ。『私が出来ない出来ない』で闇雲にずっと刃を振り回していても埒が明かない。


「くっ、やってやろうじゃん、やってやろうじゃんよっ。でも、しくったらアンタ承知しないからね!」


「ははっ、怖い怖い。怖いのは顔だけじゃないのね」


「うっせぇわ!」


 ライダーのおちゃらけた返事が私を更にイラッとさせる。

 だが、今は目の前の地蔵を落とす事だけを考えなければ。足の指に力を込めて、生えた鉤状の刃を足元に突き刺し固定しながら、一歩、また一歩と踏み出し少しずつ近寄る。

 歯だけ物理攻撃が効くと言うなら、さっきも鼻頭から上切り離したし、首を斬り落とすのは手と同じくして難しくはないはず。

 首さえ斬ってしまえば、どれだけ無数の手でバスにしがみ付いていようと、下に落とせるはずだ。


 止まらない相手の触手のような無数の手を切り落としながら、近づいていく。斬りきれなかった手にある口に何箇所か噛まれて肉を引き千切られる。

 私自身に再生能力もまだ残っているようだが、とても追いつかない。とても痛いが、我慢するしかない。こんな身体でも痛みを感じるなんて勘弁して欲しいものだ。


〝なんぞ? なんぞ? 自ら喰われにきおったか? 臭い、汚い、醜いぞ。まるで死体か生ゴミじゃ〟


 一メートル程までの距離に近寄ると、今まで私を執拗に攻めてきていた無数の手の動きがピタリと止まった。そして金色の歯が生え並ぶ大口が少しずつ開かれていく。こいつ、完全に私を舐め腐って油断している。多分、頭はすごく悪い化物だ。


「ええ、喰われにきてあげたわよっ、ほら、さっさと大口開けて私の事喰ってみなさいよ!」


 私のその言葉を聞くと、地蔵はニタリと口角を上げ、一気にその口を大きく開いた。

 そして、歯についた涎を撒き散らしながら、私にそのまま急接近する。


〝喰らおうぞ! 喰らおうぞ! 腐った魂、どんな味じゃ!〟


 ギリギリまで引き寄せ、体を捻る。

 足の鉤爪を元の爪に戻し固定された足から力を抜き車体から身を離すと、向かい風で身体がフワリと僅かに浮かんだ。そしてそのまま後方へ飛ばされる感覚。

 右手に生える五指の刃に意識を集中しイメージを膨らませると刃を巨大な長い一本に纏める事が出来た。


 コレならいける……っ!


 瞬時にタイミングを計り捻った身体をそのまま一回転させ、遠心力で刃の薙ぎの威力を増加させて地蔵の首を右手の刃で斬り付ける。思った通り、その太い首は私の刃をいとも簡単に受け入れ、その身から剥がれて行く。


〝無駄ぞ、無駄ぞ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。学ばぬ魂、頭が悪い〟


「無駄かどうかは結果を見てから言いなっ!」


 地蔵の口が私の身体を捉えて勢いよく閉じられる。だが、支えを失った私の身体は向かい風により更に少し後ろに吹き飛ばされ地蔵の口射程圏内から外れる。


 完全に閉じられる前に次の一手を……!


 続けて同じ要領で左手の刃を一本に纏め、閉じられる寸前の地蔵の上下の歯の隙間に挟み込んだ。


 凄まじい金属音と共に閉じられた歯の間に、私が振った左手の刃が挟まれた。かなりの圧だ、このまま噛まれ続けたら間違いなく刃が全てが折れてしまう。しかし、そうなる前にやれるだけやってやる。

 この勢いのまま下にフッとばすしかない。


「うぉーらああああ!」


 間一髪、向かい風に大きく吹き飛ばされる前に再び足をバスの天井に固定し、その金色の歯の重さでミシミシと音を立てる左腕を勢いよく振り切る。

 正直辛い、かなり辛い。まるで巨大な金属を片手で持ち上げているかのようだ。

 重みで腕がちぎれそうだ。だが、ここで諦めては駄目だ。私がやらなきゃ誰がやる。


 カッターナイフ。私の刃がカッターを模した物でよかった。だからこそできる事がある。

 噛まれている左手の刃の節を自らの意思で折り、地蔵のデカイ頭ををバスの下へと放り投げた。状況を飲み込めず驚いた地蔵は眼をギョロギョロと動かし慌てふためいている。


「そっち行ったよ! 言い出したんだからアンタが後は何とかしなさいよ!!」


〝何ぞ!? 何ぞ!? 貴様等何ぞ!? ババアはどうした!? ババアは何をしておるぞ!?〟


 マジで何とかしなさいよ、アンタに全部任せたんだからね。



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