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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-32-8.ターボババアの反抗【陣野卓磨】

 状況がよく分からない。だが、聞こえてきた鴫野とライダーの会話からしても、ターボババアがバスの上に乗ったのは確かだ。窓の外には相変わらず切り落とされた地蔵の腕がちらほらと落下しているのが見える。


「陣野君、なんで、何でお兄ちゃんが……!? お兄ちゃんは交通事故で……っ」


 蘇我が困惑した表情でこちらを見ている。


「蘇我さん、啓太郎さんが昔死んだのは紛れもない事実なんだ。でも、あそこにいるのも啓太郎さんで……あー、なんて言っていいんだ……とにかく、啓太郎さんを信じてじっとしてて!」


 この状況下で冷静に説明できるはずもなく、とりあえず大人しくしててくれる様に促す。

 その言葉に蘇我も頷き席に戻り、外を走るライダーを真剣な眼差しでじっと見つめる。その表情は、今までの恐怖に満ちた顔ではなく、兄を信じてこの状況に耐えることを決意した顔に見えた。


 俺も何か行動を……と思い天井の穴を見たその時、穴から青黒い炎がほどばしるのが目に入った。そして、数秒後、衝撃が走り揺れるバスの車体。慌てて前方を見ると、バスのフロントガラスの向こうに、凄まじく噴射される青黒い炎が目に入った。


「と、友惟! 大丈夫か!?」


「あ、ああ……」


 すぐさま運転席に駆け寄り、声をかけると、バスの外から凄まじい声が聞こえてきた。


「グウヌウウウウウウウウウウウウガアアアアアアアアアア!」


「お、俺は大丈夫だけど……一体なんなんだ、この……婆さん」


 友惟の視線の先、バスの前方には車体に両手を付き、凄まじい豪炎を噴出しながらバスを停めようとしているターボババアの姿があった。バスの車体を支える鋼鉄の様に変色した細い足は、粉塵を巻き上がらせながら地面と擦れて凄まじい火花を散らしている。


「……いける……」


 思わず口から言葉が洩れた。

 柏木さんの思いが伝わったのだ。ターボババアが生前の記憶を取り戻して、ブレーキの効かないバスを停めようとしてくれている。だが、様子がおかしい。見えるターボババアの毛先や所々が光の粒子となって薄くなっているところがある。まさか、記憶が戻った事によって消滅しかけているのだろうか。でも、何でこんな光の粒子に……。伊刈や鴫野や両面鬼人は灰になったのに、どうして。

 屍霊によって消え方は様々なのだろうか。


 だが、そんな事を今考えていても仕方がない。俺達に手を貸してくれる味方が増えたのだ。残る敵は大喰い地蔵、唯一体のみ。


 俺が出来る事と言えば……皆を元気付けるくらいしかできない。

 なんと言うか、情けない。でも、何も出来ないよりはマシだ。この中で一番状況を理解している俺が、皆を落ち着かせて希望を持たせるしかないのだ。

 そう思い後ろを振り返る。と同時に鴫野の声が聞こえてきた。


〝うぉーらああああ! そっち行ったよ! 言い出したんだからアンタが後は何とかしなさいよ!!〟


〝何ぞ!? 何ぞ!? 貴様何ぞ!?〟


 慌てる大喰い地蔵の声。窓を見ると、首を斬られてバスの側面へと落とされた大喰い地蔵の頭が見えた。それに加えて、別の物も目に入る。外の風景の所々にヒビが入り光が漏れ出しているのだ。まさかターボババアが消えかけている事で空間が……。


 このまま元の場所に飛び出したら、普通なら霧雨市側の道に出るはずだが、屍霊の空間だ。出口がどうなっているか分からない。……万が一にも火徒潟町側に飛び出してしまったら……。

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