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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-11-2.壊された記憶【霧竜守影姫】

最終更新日:2025/3/8

「よし、終わったぞ。じゃあ下に行こうか」


 手をパンパンとはたき、千太郎が押入れの襖を閉める。

 押入れの掃除が終わり、布団も敷き終えた。掃除と言っても、上段にある荷物をできるだけ下段に詰め、あぶれた物を箱に詰めただけの作業であった。

 そのような単純な作業ではあったが、ほとんどの時間、私は千太郎の後姿を眺めているだけであった。

 千太郎が卑猥な物が詰まった箱を持ち上げ、部屋を後にするのを見送り、部屋を見回した。そして、私も千太郎に続き、部屋を後にした。


 見たことのある廊下、見たことのある階段。以前にこの家に住んでいたことがあるという記憶が朧気にある。

 家の中は妙に静かに感じられた。かつては千太郎や卓磨、燕の他にも何人かいたような気がするからだ。

 ただ、はっきりと記憶が思い出せないため、思い出に耽ることもできなかった。ただただ、モヤモヤとした気持ちを胸に秘め、家の様子を見回すことしかできなかった。


 最後に戦った屍霊しれい……私を粉砕した屍霊。

 それと戦った際、その場にいた人々の記憶がすっぽり抜け落ちていた。

 誰かと共闘したことは確かだと感じているが、その部分だけ大きな穴が開いたように記憶が欠けている。

 それだけは理解している。恐らく、千太郎が口にしていた静磨しずまという人物もその時共に戦ったのであろう。だからこそ記憶が抜けていると考えるほかはない。


 その後、あの長身の屍霊はどうなったのだろうか。目覚めた私に対して何も語らず、千太郎が年を取りながらも変わらず生きていることから、退治できたのではないかと思う。それとも、どこかに封印しただけで、今もこの世のどこかで蠢いているのだろうか。

 あるいは、私が千太郎のことを覚えているという事実は、千太郎がその戦いに参加していなかったことを意味するのかもしれない。であれば、千太郎が知らないだけという可能性も考えられる。


 その時の事を思い出そうとすると、「ボッ……ボッ……」という気味の悪い音に邪魔をされ、まるで冷たい手が頭の中を掻き回すような感覚と共に、出かかった記憶が頭を走る痛みと共に黒い渦に飲み込まれ、かき消されていく。

 それに加えて気分が悪くなり、私の身体に融合している刀がズキズキと痛む感覚が続く。

 目覚めたばかりの影響かと最初は考えたが、どうやらそうではないらしい。何か別の力が、私が記憶を辿る行為そのものを妨害しているような感覚があった。また別の呪いか何かかと疑念を抱いた。


 階下に降り、風呂を借りてから台所で水を一杯いただき、乾いた喉を潤した。


「何か以前の事で思い出した事があれば、ワシにも教えてくれよ。ワシは最後の現場におらんかったからな……多くの死者が出て知る者が少ないのもあるが、残された者も口をつぐんで言おうとせん。件で仲違いが大きくなった者も多いしな」


 同じく台所にいた千太郎が声をかけてきた。千太郎の方を見ると、何やら手の平に収まる小さな機械を指でさすっている。以前には見たことのない小さく薄い機械で、時折光を発するその表面に、どこか不思議な感覚を抱いた。


「ああ、思い出したらな」


 口を噤んで言おうとしない、か。

 もしかしたら、私と同じように記憶が抜けているのではないかと考えられる。全部ではないにせよ、一部の記憶が抜けているということもありうる。だとすれば、今の私のように、はっきりと語ることはできないだろうと感じた。

 何にせよ、思い出せない事である。その場にいた者が誰かも分からない状態であり、今考えても仕方がないと結論づけた。


「ああ、それとじゃ。卓磨が空き部屋があるだろうとか言い出すかも知れんから、その部屋は別に使う案件があるので影姫の部屋としては使えないとでも言っておけ。あいつは単純だから後は適当にいなしたら丸め込めるじゃろ」


「わかった」



「きつい言葉はあまり使うなよ。見た目が鈍感そうな男とはいえ気難しいな年頃じゃからな。ヘソを曲げられでもしたら今後の為にもならん」


「任せておけ。千太郎は私の性格を知っているのだろう?」


「だから心配なんじゃよ……」


 そう言う千太郎を一瞥し、背を向け台所を出ると、ちょうど部屋に戻るであろう卓磨と階段の前で鉢合わせになった。私はそのまま彼の後ろをついていく事にした。


 特に気にする素振りもなく歩き続ける。この男とはうまくやっていけるのだろうかと疑念が浮かんだ。

 私を目覚めさせた、この男とは。私の力を引き出す存在であるはずなのに、どこか頼りなさげな背中に、複雑な思いが胸をよぎった。

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