4-32-6.ライダーの頭【陣野卓磨】
〝やっと……喋れるか。七瀬さんなら必ず見つけてくれると信じていたっ〟
僅かに聞いた事のある男性の声が聞こえてきた。
俺の頭……? もしかして首なしライダーの声か?
いや、もしかしてじゃない。この声は蘇我のストラップで見た記憶の中で聞いた声だ。そう、蘇我啓太郎の声。
そう思い慌てて窓に近寄り、バスと並走している首無しライダーの方に改めて目を向ける。
そちらでは相変わらず白目を向いて走るターボババアと首無しライダーが速度を落とさず付いてきていた。フルフェイスのヘルメットのあらゆる隙間からは青白い炎が絶え間なく漏れ出している。
ライダーはババアがとりあえず今は害がないというのを確認すると、バスの上へと視線を向けた。
〝おい、バスの上で戦ってる奴、物理的な攻撃が効かないのなら俺に案がある。何とかこっちにソイツを引きずり落とせないか!?〟
ライダーが鴫野に向かって語りかけている。
突然の提案だ。信用しても大丈夫なのだろうか。
〝引きずり落とすって……! 斬っても斬っても消えてくのにどうやって!〟
鴫野も困惑している。しかし、その声に反応したのは鴫野だけではなかった。柏木さんを抱きかかえていた蘇我さんがハッとした表情で窓の外を見ている。もしかしてライダーの声が聞こえているのは俺と鴫野だけではないのだろうか。
「この声……お兄ちゃん……? やっぱりお兄ちゃんなの!?」
蘇我が放った声にライダーの頭がこちらを向いた。
〝……ああ、声は聞こえてきていたが……やっと顔を見れたな。大きくなって……お兄ちゃんは嬉しいぞ。ははっ〟
「お兄ちゃん、何で……!」
〝説明している暇はない。今は目の前の危機を解決しないとな〟
バス上の地蔵を見ながらそう言うと、ライダーはターボババアの方に顔を向けた。相変わらず白目を向いて走り続けるババアは、何に対しても反応しなくなっている。
〝おい、鶴婆さん、アンタももう正気に戻ってんだろ。可愛い孫の為にもこの状況何とかしろ……って!〟
そう言うとライダーはババアにバイクを寄せると、片手でババアの着物の襟首を掴み軽々と持ち上げ、バス上へと向けて勢いよく放り投げた。
だが、この速度である。投げた勢いが足りずに、ババアはバスの上に着地することなく、バスの後方の道路へと投げ出されてしまった。地面に倒れ、手足をフルスイングさせているババアがのた打ち回りながら、みるみるうちに遠ざかっていく。
〝あらら……〟
ライダーの残念そうな声が聞こえてきたのも束の間。バスの後方から凄まじい声が聞こえてきた。
「キエエエエエエエエエエエエエ!!」
慌ててバスの後方に移動し後ろを見ると、ターボババアが意識を取り戻して、凄まじい爆炎を撒き散らしながらこちらに向かって超速で走ってきている姿が見えた。視点の定まっていないその形相は、俺から見たら、どう見ても正気を取り戻したという顔には見えなかった。
ターボババアはバスの後部ギリギリまで近づくと、車体に手を伸ばし登り始めた。先程までとは明らかに行動が違う。まさか、上にいる鴫野に攻撃を仕掛けに行ったのではないのか。先程まで地蔵にあやつられていたのだ。その可能性はある。
もしそうだったら、鴫野はただでさえ苦戦しているというのに、これ以上敵が増えたら危ない。
かと言って、俺が天井に開いた穴から上に出た所で何も出来ない。どうすれば……。




