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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-32-4.澪の巾着の記憶②【陣野卓磨】

 場面が変わり今度は車の中だ。

 見える人物達からして恐らく先程の警察車輌だろう。


「しかし七瀬さん、お金まで出してあげるなんて優しい所あるんですね」


「仕方ねぇだろ。あの巾着、結構重みがあったと思ったんだが十円玉と五円玉と一円玉しか入ってなかったんだからよ。あそこでまた泣かれちゃそれこそ敵わんだろ」


 車の後部座席では柏木さんが大きな花束を手にニコニコと外を眺めている。


「まぁ、それもそうなんですが……しかし、あんな所で手帳見せる羽目になるとは……」


「それも仕方ねぇだろ。あの店員、どう見ても最初、俺等の事を怪しんでる目つきだっただろ。こそこそと奥で携帯なんか取り出しやがってよ、あれ絶対通報する気だったぞアイツ」


「ですね。間一髪でした」


 船井が、あの時は肝を冷やしたといわんばかりに大きなため息をつく。それを横目で見ながらうなる七瀬刑事。


「しっかし、花って意外に高けぇんだなぁ。普段買わないから知らんかったわ」


「まぁ、そんなに頻繁に出る商品でもないでしょうし仕方ないですよ。で、道どっちなんです? 七瀬さん知ってるんですよね」


「ああ。ちょっと昔行った事のある家だったんでな。番号も関係者の親族に聞いてその時に登録してそのまま残ってたんだ。で、その花を供える相手にも一度手を合わせておこうと思ってな」


「ああ、事故か事件の関係者の家だったんですか」


「おう、まぁな。交通事故だから俺は管轄外の事だったが……。まぁ、昔の事はいい。確か際岳きわたけの方だ。詳細は……まぁ、近くにいきゃ分かんだろ。とりあえず際岳の方に向かってくれ。際岳」


「はぁ……私等が行く予定だった場所と逆方向ですね。ま、仕方ありませんか。子供の危険を一つ回避できたと思えばですね」


「そうそう、仕方ねぇ事もあるもんなんだよ」


 そう言いつつ七瀬刑事が後部座席に目をやると、柏木さんは疲れたのか寝息をたて始めていた。

 そんな柏木さんの顔を見て仕方なさそうに笑みをこぼす七瀬刑事。


 そして車は目的の場所へ向けて走り出す。


 …………。


「お祖母ちゃん、ありがとうっ、澪、この袋をお財布にしてお花買ってきたんだよ!」


 場面が変わり、七瀬刑事と柏木さんが仏壇の前で手を合わせている。恐らく柏木さんの家だろう。仏壇の上には老婆の写真。笑顔で仏壇の前の柏木さんを見つめているように見える。


「すみません、わざわざ送っていただいて……目を離した隙に勝手に出て行ったみたいで。見つけてくれたのが七瀬さんでよかったです」


 後ろから女性が顔を出した。恐らく柏木さんの母親だろう。


「いえ、私も最初は柏木さんの所のお子さんとは知らなかったんですけど、住所が途中まででも分かってよかったです。それに、前々から一度くらいは手を合わせに来ようとは思ってたんですよ。蘇我の祖母に当たる方でしたし……」


「啓太郎さんも何であんな危ない場所でスピード出したんですかね……当時、彼の母親も危ない運転だけは絶対にするなと釘を刺してたのにって泣きながら言ってましたよ」


「私は捜査に加わっていたわけではないですので詳しいことは分かりませんが……まぁ、彼もあまり素行の良くない友人がちらほらといたみたいですし、何かそそのかされたのかも知れませんな。私としても悔しい気持ちがあります」


 それを聞いて柏木さんの母親は柏木さんの隣に腰を下ろして仏壇を見つめる。


「うちの母も、この子が生まれるのをすごく楽しみにしてたんですよ。それであんな事故が起きて……。母は啓太郎さんの事を『ろくでもない悪ガキ』と度々言っておりましたが、気にはかけてたみたいで……七瀬さんのおかげもあって、悪い素行も大分と減っていましたし……」


「いやいや、私など大した助力も出来ず……」


「そんな事ないですよ。七瀬さんに出会う前は度々母にお金をせびりに来てましたからね。そんなこともあって、加害者も被害者も身内だったし、感情を何処にぶつけていいのか分からなかったです。話によるとタクシーは安全運転をしていたという事でしたし」


「原因の手がかりになるのが運転手の証言だけだったそうで……本当のところはどうなのか分かりませんよ」


「それでも、出てきた証言が全てですし、それを私達が翻すなんて事は出来ませんから。と思うようにはしてるんですが……今はもう落ち着いてますが、それでもたまに思い出してしまいます」


 二人が話をしている中、暇そうにしていた柏木さんが立ち上がり部屋を出て行った。そして少しして手に何かを握って戻ってきた。


「お祖母ちゃんこれも上げる! はい、刑事さんも!」


 それは飴玉だった。仏壇の前に供えられた花の横に飴玉を置くと、七瀬刑事にも数個手渡す。七瀬刑事は照れ笑いを浮かべながら「ありがとう」と言いそれを受け取る。

 ここまで見てきただけでも、柏木さんが会った事もない祖母の事を、どれだけ好きであったのかが分かる。生前沢山の物を柏木さんの為に残してくれたという思いが強いのだろう。


 伝わるだろうか。柏木のお祖母さんにこの記憶は伝わるのだろうか。伝わって欲しい……。

 伝えてみせる。


 そんな想いを胸に強く抱く。

 そして、そこまで見ると視界が徐々に白みがかってきた。元の場所に戻るのだ。


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