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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-32-2.澪の巾着袋【陣野卓磨】

 何か、ターボババアに自我を取り戻させるような強い記憶を伝えられる物……何か無いか……何か……。

 それがあれば伊刈や鴫野の時のように、何とかなるかもしれない。この妙な空間だって、トンネルと言う所から見ても地蔵の出している空間だとは思えない。恐らくターボババアの展開している空間だ。ターボババアが何とかなれば、この空間だって消えて元の世界に帰れるはずだ。


 些細な事でも逃さぬように集中して最近の事を思い出していく。わずかな見逃しも許されない。俺の過ごしてきたこの数日間の間に何かヒントがあるはずだ。今までだってそうだったんだ。今回だってきっと……。


 そうだ、柏木さん、柏木さんが確か巾着袋を持っていた。行きのバスの中で見せてもらったのを思い出した。

 俺や影姫が貰った巾着袋ですら記憶を覗けたのだ。柏木さん本人が持っている物ならもっと思い入れが強いはずだ。


「か、柏木さん! 巾着! 巾着袋貸して!! 早く!」


 咄嗟に、蘇我の横で俯き涙を流している柏木さんに大声を上げながら近づく。


「ちょっと、陣野君っ。こんな時に何を……そんなもの出させてどうするつもり!?」


 何も知らない蘇我が、泣きじゃくる柏木さんを庇うように俺を牽制してきた。

 こんな時、こんな時だからこそなんだよ……っ。


「柏木さん!」


 蘇我に状況を説明している暇などない。事は一刻を争うのだ。

 俺の声にゆっくりと顔を上げる柏木さん。だが、切羽詰る俺の顔を見ると悲しみに満ちた表情も一変、何かを察したかのように涙を拭い、真剣な顔になる。


「す、すぐに出します!」


 慌てて肩掛けのポーチのファスナーを開けて中を探り出す。


「み、澪ちゃん、そんなの出してどうするの……陣野君、どういう事!?」


 俺と柏木さんの顔を交互に見ながら、不安げに言葉を放つ蘇我。


「蘇我さん、今は詳しい事を説明をしてる暇はな……」


「お兄さん、お願いしますっ! お祖母ちゃんを、お祖母ちゃんを助けてあげて! 智佐子ちさ姉ちゃん、ここはお兄さんを信じて任せて! 見てれば分かるからっ!」


「え、でも! これで何をどうしようって……!」


 柏木さんが差し出した手には、朝見た巾着袋。

 俺や影姫が貰った物とは違い、使い込まれていて、色あせたり少しほころびている所もある。だが、それは大切に使われてきた証拠だ。俺達の物よりも沢山の思いが、記憶が詰まっているはずだ。


 柏木さんの手に、手を伸ばす。

 だが、再びバスに強い衝撃が走る。車体が傾き、危うく横転しそうになる。と同時に巾着袋が床に落ちて前の座席の下に滑り込んでしまう。


〝ちょっと! 何やってんの! 運転手しっかりしなさい!〟


「これでも精一杯やってんだよ! くそっ! そっちこそ早く何とかしやがれってんだよ!!」


 鴫野と友惟の叫び声が聞こえてきた。鴫野の心の声が友惟にも聞こえているようだ。俺は慌てて座席の下から巾着袋を取り出し、目を瞑り意識を集中させる。


 頼む……早く、早くッ!


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