4-31-6.八方塞【霧竜守影姫】
卓磨はすぐそこにいるというのに声をかけることすらできない。
何とかこの状況を打破する手立てはないものか。
声、声……そうだ……。電話、電話はつながるはずだ。私のスマホは電池が切れてしまったが、七瀬なら卓磨の番号も登録しているはず。
「七瀬っ! スマホを貸してくれ! 卓磨の番号は入っているのだろう!?」
「あ、ああ。しかし、繋がるのか? その……固有空間とやらは」
「ああ、ここに来る前、卓磨の方から電話がかかってきたんだ。その時は私のスマホの電池が切れてしまったのだが……だが、それならこちらから電話をかけてもいけるはずだ」
「そ、そうなのか」
七瀬はそう言って慌ててポケットをまさぐりスマホを取り出すと、画面を触り始めた。
「あ、あった。ほら」
そう言って差し出されたスマホの画面には陣野卓磨の文字が。さっきはいけたんだ。かかってくれ、お願いだ。
コール音が鳴り響く。呼び出しはしているがなかなか出ない。どうなっている。
そんなに切迫した状況なのか。気持ちだけが焦ってしまう。
「どうだ?」
七瀬も九条もこちらを心配そうな視線で見ている。
「呼び出しはしているのだが……」
駄目か…? 駄目なのか? 向こうの状況がどうなっているのかがさっぱりわからない。何とか状況だけでも……。
三十回ほどコール音が鳴り、諦めて電話を切ろうとした時、コール音が途切れた。
「卓磨! 大丈夫か!?」
相手が喋るのも待たずに声をかけてしまう。自分でもわかるが相当焦っている。
『影姫か!? 何やってるんだよ! もう峠には着いたのか!?』
卓磨の方もよほど焦っているのか、喋る声が大きく耳に飛び込んでくる。思わずスマホを少し耳から話してしまう。
「着いたのは着いたんだが、屍霊の固有空間に侵入できない! そっちは今どうなっているんだ!」
『どうだって言われても……鴫野と首無しライダーが戦ってくれてるけど、影姫の言った地蔵の妖怪がしつこくてどうにもなりそうにない……!』
「鴫野……? 赤いチャンチャンコがそこにいるのか!? それに首無しライダーが戦ってくれているとはどういうことだ!? 屍霊じゃなかったのか!?」
『あ、ああ、ライダーは喋らないから何がなんだかよく分からないんだが、俺等の為にターボババアと戦ってくれてるみたいな状況なんだ。鴫野に関しては、また、俺の能力みたいなんだが……それでも圧されてて影姫もなんとか……』
「状況がよくわからないが……私も何とか手を尽くして……」
『たの……はや……れ…………たない……』
「おい! 卓磨! どうした!? 声が!」
突然卓磨の声が途切れ始める。今まで鮮明に聞こえていたというのにどうしたというのだ。
「七瀬、向こうの声が途切れるんだが、この辺は電波が悪いのか!?」
「い、いや……よくわからんが」
それを聞いて九条が自分のスマホを取り出し画面を確認する。
「いや、僕のスマホはアンテナバリバリたってるね。となると先輩のスマホだけ……もしくは向こう側に何か問題が……」
九条がそう言いかけた時、スマホの聞き取り口から、がちがちという金属をぶつける様な音と大きな声が聞こえてきた。
『喰ワセロオオオオオオオオオオ!』
その声と共に、微量の電気がスマホに走り、思わずスマホが手から離れ地面に零れ落ちる。
外枠にケースがついていたのでスマホ自体は大丈夫だったようだが、地面に落ちたスマホの画面を見ると通話が切れてしまっていた。
「お、おい、どうしたんだ」
七瀬が慌ててスマホを拾い上げ画面を覗いている。
「向こうから干渉があったみたいだ。電波を遮断されたのかも知れん……クソッ、これでは八方塞だ」
卓磨は鴫野や首無しライダーの事を話していたが、中途半端に聞いたせいでますます訳が分からなくなってきた。




