4-31-5.飛び行く光【七瀬厳八】
「うぐぐ……ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ」
二人の助けを借りながら、井戸から這い上がりやっとの事で地上に戻る。
井戸の底が臭かったせいか、外界で吸い込む新鮮な空気がとてもうまく感じる。
しかしなんと言うか、すごく体力の衰えを感じる。長く縄を握り締めて踏ん張っていたせいか、腕も張っている感じがする。コレは明日筋肉痛になるかも知れんな。
「すまんな、面倒かけた……くっそ、スーツがドロドロだ。クリーニングしたばっかだったのによ……」
「いやぁ、影姫ちゃんが意外に力があったんで、上はそれなりに大丈夫でしたよ。それより、何を見つけてきたんすか?」
身体に結びつけた縄を解きながら問いかけてくる九条。影姫も横で腕を組みこちらを見ている。
その顔からは焦りを感じられるのだが、俺は期待に添えるようなものを見つけてこれたのだろうか。
九条のその言葉に、まだ井戸に垂れ下がっている縄を引っ張り上げる。先には蘇我の頭がくくりつけてある。コレが何かの足がかりになればよいのだが。
「これ……」
説明をしようと縄を井戸の口から引き上げたまさにその瞬間であった。ヘルメットがボヤッとした青白い光を放ち、その光は狭い籠から解放たれたかのように夜空へと飛び上がり瞬く間に視界から消えてしまった。
「お、おい、今のは……? 一体何を見つけてきたんだ?」
影姫も光を目で追った後、目を丸くして驚きこちらに近寄ってきた。九条も同じく怪訝な顔をしつつもこちらへ駆け寄ってくる。
「あ、ああ、首無しライダーになった蘇我啓太郎の頭部だと思われるモノが底に落ちてたんだが……今のは一体……」
「光が飛んで行ったのはトンネルの方だったな。七瀬、ひょっとしたらひょっとするかもしれん。急いで戻ろう!」
影姫はそう言うと、俺の返事を待つ事もなく、来た道を駆け戻って行った。
「お、おい! ちょ、ま……九条、俺等も戻るぞっ」
「はいっ」
そうして、頭蓋骨の入ったヘルメットを片手に、来た薮道を急いで駆け戻る。
斜面下に辿り着き、上を懐中電灯で照らすと、影姫は既に上へと登り終えていた。なんという早さだ。
「先輩、先行きますよ」
九条がロープを手に取り斜面を登っていく。
「あ、ああ」
それに続き、俺も張る腕を堪えつつ何とか上へと登り終える。だが、広がる風景は俺達が下に降りる前となんら変わりがなかった。
「どうだ、何か変化はあったか?」
辺りを見回すが、俺には見てもわからない。
影姫には分かるのだろうか。
「僅かに洩れ出る瘴気は一瞬感じた……だが駄目だ。私達が入れる様な穴は開いてなさそうだ……」
悔しそうにトンネルを見つめる影姫。その視線の先を目で追い俺も顔を向ける。影姫の言う通り、トンネルにこれといった変化は見受けられない。なら、さっきの光はなんだったのだろうか。
教えてくれ、蘇我。お前は俺に何をして欲しかったんだ……。




