表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
440/613

4-31-4.思わぬ所で【七瀬厳八】

 人骨付近にあったズボンを持ち上げる。かぶっていた堆積物がボロボロと落ちるが、合成繊維で作られたと思われるズボンはまだかろうじて原型を留めている。ポケットには膨らみがあり、何かが入っているようだった。

 手を突っ込んで取り出して見ると財布が入っていた。ズボンに入っていたせいか、革の財布はまだその形状を保っている。中には数枚の硬貨とボロボロのレシート、月道商店街理髪店のスタンプカード、運転免許証そして、家族の写真と思われるものが入っていた。


茅原かやはら……清太せいた……」


 どこかで聞いた名前だ。

 テレビや新聞なんかではない。同僚との世間話でもない。もっと重要な……。

 頭の中で記憶を巡らせる。


「……!」


 そうだ、思い出した。最近署の方でも建物前の掲示板で……。


 九年前の事件……指名手配中の『霧雨市・門宮市広域連続児童殺害事件』の容疑者の名前が確か茅原清太だ。当事、例の呪いの家に住んでいた男。でかいスイカくり抜いて、殺した自分の娘の死体を切り刻んで詰め込んだサイコパス野郎。

 世間では、既に死んでいるだろうとか言われていたが……。こんな所で、こんな近い場所でのたれ死んでやがったのか。しかし、娘殺しがどのつら下げて家族写真なんて持ち歩いてやがったんだよ。


 だが、気になる点があった。井戸の上には蓋がされていたな……。

 人知れずこの井戸に飛び込み自殺をしたにしてもそこに疑問点が残る。

 枯れ井戸を放置していても危ないから、誰かが知らず知らずに蓋をしてしまったのか? それとも……。


 なんにせよ、後で報告して横の小屋も含めて捜索する必要があるな。パッと見た感じは最近使われていた形跡はなかったが、何か他にも当事の事件の手がかりがあるかも知れん。


「先輩ー! 何かありましたか!?」


 上から九条の声が響いてきた。思わぬ発見に、長考してしまっていたらしい。


「ああ! 持って上がるから縄をもうちと下ろしてくれ!」


 俺がそう言うと、九条が身を乗り出し縄が少しこちらに延びてきた。


「コレが限界っす! この長さで大丈夫ですか!?」


「大丈夫だ、問題ない!」


 縄の先にヘルメットの顎部分を括りつけ、見つけた財布の汚れを出来るだけ払い落とし、ポケットにしまい込み、俺も縄を手に巻きしがみつく。


「上げてくれ!」


 いい加減、このジメジメした雰囲気ふんいきと鼻を突く臭いに限界を感じてきた。一秒でも早く上げてもらいたい気分だ。

 ゆっくりと、ゆっくりと。途中で何度か止まりながらも上に引きずりあげられていく。その度に揺れる縄の先に括りつけてあるヘルメットが壁面にぶつかりごつごつと音を立てている。


 蘇我、すまんな。今、表に出してやるからな。ちょっと辛抱してくれ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ