4-30-2.血染めの制服【陣野卓磨】
徐々に淡い光を増す月紅石。
霙月も、俺の腕にある数珠を怯えつつも不思議そうに見つめている。
「いける……のか……?」
頼む、消えないでくれ……。
ここで消えたら全てが終わる。俺は瞬時に理事長の特訓を思い出して石に意識を集中する。助けたい。皆を殺させたくない。そんな一心だけで祈り続けた。
三秒ほど経った頃だろうか。石が一気に輝きを増し、辺りが光に包まれた。
〝喰わせ~……………………………………あぁ!?〟
地蔵の驚く声が聞こえる。突然目に入った強い光に目が眩んだのだろう。
そして、石の光が徐々に弱まり、俺の前には誰かが立っている気配があった。伊刈、伊刈が出てきてくれたのか?
恐る恐る顔を上げる。
「……」
無言でそこに立っていたのは伊刈ではなかった。真っ赤に充血して見開かれた目に、大きく裂けた口から覗く薄く鋭い歯。頭を微妙にゆらゆらと揺らす仕草に、ダラリと垂らした腕の先に生える全ての指にはカッターナイフ。そして、まるでチャンチャンコを着たかの様に赤く染まった霧雨学園の制服……。
「た、卓磨……卓磨……!」
恐怖で小さく震える霙月の声が後ろから聞こえてきた。
「赤いチャンチャンコ、着せマショカアアアアアアア!!」
裂けた口を大きく開き、顔を上げ叫び声を上げる。目の前の屍霊は瞬時に指のカッターナイフを肥大化させると、こちらへと振りかぶってきた。
あまりに突然起きた事に、声すら出なかった。
「いやああああああああ!!」
霙月の叫び声が耳の奥に突き刺さる。霙月には以前襲われた記憶もあるのだ。その恐怖は尋常な物では無いだろう。
し、鴫野? 嘘だろ? なんで? しかも何でこっちにナイフを振りかざしてるんだ!?
再び訪れた恐怖と混乱で何が何だか分からなくなってしまった。
しかし、その振りかぶられた鉈のようなナイフは俺達に振り下ろされることはなく、すぐ横にあった窓の方へと振り下ろされた。同時に、俺の横に気持ちの悪い口のついた手がボタボタと二本落下してきた。知らないうちに窓を開けて侵入してきていたようだ。
「ひっ」
ピクピクとのた打ちまわる手を見て、思わず身をのけぞってしまう。
〝誰ぞ誰ぞ、ワシの手落とした子は誰ぞ。先に魂喰らおうぞ。ババアは早く戻って来い〟
怒りを含んだ低くくぐもる地蔵の声が聞こえてくる。目の前にいる鴫野はそんな声を構う事もなく、歯をガチガチと鳴らしながらこちらに向き直ると、再び片手を振りかざした。
「や、やめ……っ!」
俺のそんな声も虚しく、鴫野の腕がこちらへと向かって振り下ろされる。
危機を脱するどころか、こんな事になろうとは思いもしなかった。




