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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-30-1.無数の手【陣野卓磨】

 タンッ!タンッ!タンッ!タタタタタタタタタタッ!


 嫌な音が聞こえて窓の外を見ようとすると、その視界はものの見事にほぼ塞がれていた。


 バスの窓ガラスに無数の手がへばり付いている。全ての手の平には口があり、そこから伸びた舌がバスの窓を嘗め回している。そしてその無数の手は、バスの窓が開いている部分を探すかの様に指をクネクネと動かし這わせている。

 フロントガラスの方を見ると、地蔵の妖怪から伸びた体から無数の手が生えているのが見えた。バスの窓に張り付いているのは、目の前に見える妖怪の手だ。気持ち悪い。今まで何体も屍霊を見てきたが、目の前にいる地蔵妖怪はそれとはまた違った気持ち悪さを醸し出していた。まるで無数の長い手を生やした巨大な人間を持った百足むかでである。


〝喰わせろ喰わせろ喰わせろや。早う魂喰わせろや。ババアはたらたら何しとる。早う魂喰わせろや〟


 妙な声だけが辺りに鳴り響き、バスが揺らされている。バス内にいる俺達は皆が皆、自分の事で頭がいっぱいになり言葉を発する者がいない。

 今の地蔵の発言からすると、ターボババアは地蔵が支配下においているのだろうか。じゃあ首なしライダーはどうなのだろうか。

 ますます状況が分からなくなってくる。


 もうこの状態で何分経ったのだろうか。外の二体が争っていて殺意がこちらから逸れているとはいえ、状況がどんどん悪化している気がする。このままでは遅かれ早かれどこかから地蔵の手が侵入してきて襲われてしまう。それに、俺を含めてみんなの精神状態がいつまで持つかわからない。


 しかし、この延々続くトンネル……。これって影姫の言っていた屍霊の固有結界なんじゃないのか。もしそうだとして閉じ込められているのだとしたら、影姫が助けに来てくれるなんて希望もないんじゃないのか。

 ふとそんな事が頭を過ぎる。そして、今まで抱えていた不安が一気に絶望へと変わっていく感じがした。


 影姫も助けに来れない。月紅石も使えない。他に屍霊相手に頼れそうな人間もいない。


 死ぬ。死ぬ? 死ぬのか? やっぱり俺はここで死ぬのか?

 嫌だ。死にたくない。何で毎度毎度こんな目に合うんだよ。つい二ヶ月前までは普通の生活を送っていたのに。どうしてこうなるんだ。


卓磨たっくん、私達、どうなるの……? 私、嫌だよ……こんな所で死にたくないよ……」


 霙月の顔を見ると、すがるような視線でこちらを見ている。返す言葉が見つからない。蘇我も柏木さんも、お互い身を寄せ合って恐怖で震え上がっている。友惟だけがただ一人バスを走らせ頑張っている。


 嫌だ。俺だって嫌なんだよ。

 でも、なんだ……友惟は頑張ってるってのに俺は何をしてんだ。唯一対抗手段を持っているはずの俺が恐怖に怯えて蹲っててどうするんだ。

 そうだ、何としてでも月紅石を……光らせるんだ。理事長の特訓を思い出せ。あの時の事を思い出せ。光った時の事を思い出すんだ。意識を石に集中して……頼む、皆を死なせたくない。皆ここで終わるような奴等じゃないんだ。

 伊刈、頼む。でてきてくれ……お前だけが今、頼りなんだ……!


「きゃあっ!」

「ぐうおっっ!?」


 俺が念じていると激しいバスの揺れと共に霙月達の叫び声が聞こえてきた。この揺れはターボババアの体当たりの時と同じ揺れだ。外で何が起こっているんだ。

 霙月を見ると、頭を抑えて蹲っている。


「おい、霙月っ、大丈夫か!?」


「う、うん、ちょっと頭をうっただけだけ……でも……もう無理だよ……こんなの……」


 恐怖に怯え今にも泣き出しそうな霙月の顔が目に入り、消え入りそうな霙月の声が耳に入った瞬間、俺の中で何かがキレた。恐怖とか不安とか、そんなものよりも月紅石に対する怒りが沸々と沸いてきたのだ。


「なんでだよ! 何で光らねぇんだよ!! この肝心な時に……! このクソ石がよぉ!」


 石に向かって叫ぶ。だが、光る事は無い。俺にはどうする事も出来ないのか。このままやられるがままに殺されて魂を喰われて死んじまうのか。そう考えると目頭が熱くなってきた。

 大切な幼馴染も、大事な親友も、目に入る人すら俺だけでは守る事は出来ないのか。

 そう考えると涙が溢れてきた。情けない。守りたい人が近くにいるってのに……。


 床に肘から手を突くと悔し涙が頬を伝い零れ落ちる。

 しかしその時だった。閉じた目の向こうに僅かに何かが光っている感触があった。ゆっくりと目を開けると、月紅石が僅かにだが輝き始めていた。

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