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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-29-7.信じる【或谷蓮美】

「蓮美、悪いが燕を家まで送り届けてやってくれ。連れて行く訳にも行かないし、もう日も暮れてきている。一人で帰らせるのも危ない」


「ちょ、何言ってんのよ! 私等も行くって! 力になれると思うし、相手三匹いるんでしょ!? 影姫と陣野先輩だけじゃ無理だって!」


「すまない、本当にもう、燕を危険な目に合わせたくないんだ。分かってくれ」


「なら、立和田に燕ちゃん送っておくように連絡つけとくから……」


「蓮美、お前、月紅石は持っているのか?」


「そ、それは……でも、鬼の力を使えば何とか……っ!」


「鬼の力は月紅石の能力があってこそ相乗効果をもたらすものだろう。人の血が混じり、代々血が薄まっている鬼の家系が、月紅石もなしにどこまで戦える」


「そ、それは……何でそんな事を知って……」


「岩十郎が月紅石だけを取り上げて、あんな見た目だけの頼りの無い新米護衛をつけたのを見ていれば分かる」


「それでも援護くらいは……」


「屍霊相手に卓球をしに行くのではないのだぞ。分かってくれ、今日は私に任せて燕を頼む」


「で、でも!」


「それからでもいい、或谷邸に戻ったら何とかして月紅石を持ち出して加勢に来てくれればいい。私等はそうやすやすとはやられんよ。信じてくれ。私も蓮美を信じているから」


 ◇◇◇◇◇◇


 先程の会話を思い出す。

 何が信じてくれだ。屍霊がいるにも拘らず、月紅石を持っていないからと言って、すぐさま加勢に来てくれとも言ってくれないなんて。三匹相手に私が行くまで持つ訳がない。月紅石がないという事が、こんなにもどかしいとは思わなかった。


 今は車中。燕を送り届けている最中だ。一方的だとは言え、約束を破るわけにも行かない。

 悶々とした胸中を押さえつつも車に揺られている。


「蓮実さん」


「何」


 燕は私の方を見ているが、少し怯えた様子である。確かに苛ついてはいるが、そんなに怖い顔をしているだろうか。


「私は影姉の事、信じてます。絶対解決して戻ってくるって信じてます。だから……」


「何を根拠にそんな事を言えるのよ。アンタだってこの間の市役所の一件見たでしょ?」


「見ましたけど、でもっ」


「でももへったくれも無い。私と影姫、それから陣野先輩や両面鬼人が束になってやっと倒せるような相手だっているのよ。しかもそれが今回は三匹っていうじゃない。例えそこまで強い相手じゃなかったとしても、一気にかかってこられたらひとたまりも無いわ。とても私が行くまで持ち応えられるとは思えないね」


「……」


「何で発生がわかった時点で相談してくれなかったのか……」


 少し口調が強くなり冷たく言い放ってしまったせいか、燕は返す言葉も無く視線を逸らして俯いてしまった。

 長年ほぼ一人で過ごしてきたせいか、友達との接し方が分からなくなってしまっているのかもしれない。

 そんな燕の姿を見て自分の態度を改めないとと思ってしまう。

 伊刈先輩はこんな態度をとる私に何も言わず付き合っていてくれていたのかと思うと、申し訳なくなってきた。

 だからこそ、今後は自身の態度も見つめ直していかなければならない。


「ご、ごめん、燕ちゃんにあたっても仕方な……」


 謝ってその場を取り繕おうとしたが、燕は私が思ったより強い人間だったようだ。


「私だって、私だってお兄ちゃんや影姉の事手伝いたいんです! でも、私にはそう言う力が無いから、足手まといになっちゃうから、こうして何も言わずに大人しく……」


 しかし、燕の声は震えている。よほど何も出来ない事が悔しいのだろう。


「もしもの事なんて……考えたくないですけど、もしもの事があって一番悲しいのは私なんですよ……信じるしかないじゃないですか……」


 身内が死ぬと言うのは悲しい事なのだろう。私も、日和坂が死んで泣きこそしなかったが、心のどこかにポッカリと穴が開いたような気分になった。

 燕は私の数少ない友達だ。燕にはそう言う思いをなるべくして欲しくない。誰かに悲しい思いをして欲しくないなんて思ったのは生まれてこの方初めてだった。ここ最近、私の中で何かが変わったような気がする。


「立和田、急ぎなっ。燕ちゃん送り届けて、一秒でも早く加勢に行くよ!」


「はい、蓮実さんっ」


 外はもう闇に包まれかけている。暗くなればなるほど、目に頼らざるを得ない生きている人間は不利になる。何とか持ち応えてくれと祈ることしか出来ないのがもどかしい。

 例え月紅石がなくとも、必ず峠に向かうからな。


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