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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-10-2.彼女の正体は【陣野卓磨】

「嘘だァ!!」


「嘘じゃない! 私はそう聞いた! そう言えと言われたっ」


 影姫が指先の異物に気付き、横に脱ぎ捨ててあった俺の制服にこすり付けた。

 や、やめろよっ! 自分の物でも汚いって思うんだぞ!


「……それに!」


 俺が慌ててティッシュを手にして拭い取りに行く姿を気にも止めず、影姫は話を続ける。

 影姫は立ち上がり、押入れの方へとツカツカと歩み出した。そして、影姫が押入れの取っ手に手をかけ、勢いよく開ける!


 シャッ! っと音を立てて押入れの襖が勢いよく開かれた。その音に気付き、勢いよく振り返る。


「ああああ!? やめろ!! 勝手にあけるな! 俺の秘蔵の……アレが押入れに!!」


 思わず口に出してしまった。押入れの中には、少しエロいあんな物やこんな物が乱雑に詰め込まれているのだ。俺が危惧していた事が、今まさに目の前で……。


「秘蔵の? 何を変な顔をしている。見よ、ここに既に布団も」


 押入れの中には上段に布団が敷かれていた。下段には、上段に置いてあった筈の物が乱雑に詰め込まれている。


 なぜ!? なぜ俺の部屋の押入れが!?

 そうか、さっき二階でしていた物音、俺の部屋だったのか!

 いや、待てよ。明らかに見て分かる無くなっている物がある! アレはどこに行った!?


 俺の定まらない視線に影姫が気付いたようである。

 影姫は冷たい視線でこちらを一瞥いちべつすると、大きな溜息を一つついた。

 不吉な予感がした。


「ちなみに中にあった女性の裸体がかかれた書物等は、先ほど千太郎が箱に詰めて持っていった。あんな物、お前の年で持っていていいのか? 卓磨お主、かなりスケベだな。ムッツリか? 巨乳好きの様だが残念だったな。お前も触ったろうが、生憎今の私は胸があまりない」


 影姫が自分の胸の辺りに手をやり、持ち上げるしぐさをする。だらりとしたジャージ越しなのでその大きさはよく分からないが、今は影姫のバストサイズがどうとか言う問題ではない。


 顔が熱い。自身が真っ赤になっているのが分かる状況であった。祖父はともかく、コイツに見られたのか!

 アレの半分は友惟ともただの……いや、それよりも!

 以前ネットの知り合いから送られてきたウホッ的な物も混じっていたような……さっさと捨てて置けばよかった。

 いやいや、今それは関係ない。俺の部屋にあったブツが女子に見られ、それが全部俺の物で俺の趣味と思われてしまう事が問題なのだッ!


「ム、ムッルリじゃねぇ! アレはダチが俺の家に勝手においていった物だ! そそそ、それになんかお前、食事の時と喋り方全然違うじゃねーか! 猫かぶってやがったな!」


 自分でもわけの分からない妙な動きをする。分かる。自分でも分かるぞ。俺はかなり動揺している状況であった。


 俺が年齢を隠しつつ、なけなしの小遣いで、厳選に厳選を重ねて購入した同人誌のコレクションが……!

 今! ジジイの手に!! しかもこのままでは燕にまでバレてしまうのではないか!?


 様々な思いが頭を駆け巡り、動揺する俺に対して、影姫は至って冷静であると判断された。


「第一印象とは大切な物なのだ。この家の中心的人物であろう燕の前ではいい姉でありたいからな。正直、私の胸を触りまくったゴミ同然のお前の扱いはどうでもいい」


 くっ、不可抗力とは言え事実であるから言い訳のしようもない状況であったが、何なんださっきからコイツは。何か色々怪しい。さっき食卓で祖父が言っていた事も、どこまで真実であるのか不明である。


「お前……本当は何者なんだ? ぜってぇ父さんの隠し子とかじゃねぇだろ!」


 話題を変えねば。冷静を装わねば。何とか主導権を握らねば。

 頭の中で様々な感情が糸を引いたように絡み合い、俺は混乱と焦燥に駆られていた。


 ここは俺の部屋、この部屋の主は俺なのだ。何人たりともこの聖域を汚す事は許されない状況である。

 あってはならない事なのだ!

 ましてや今日会ったばかりの素性不明の女子!

 気の知れた親友ならともかく、コイツは一体何者なのだろうか!?


 実際、怪しい。突然の来訪、突然の同居。同居するなら事前に祖父から報告があっても良いはずである。

 それに、なぜ俺の隣で全裸になって寝ていたのか、よくよく思い返すと理解不能である。

 そして、コイツが現れる前に見た、あの時の頭に駆け巡ったあの光景……映像。


 ついでに言うと、何か忘れている気がする。俺が眠る前に何か持っていた気がするが、思い出せない状況であった。


 しかしながら、同じ年頃の女子と一緒に住めるなんてのは、二次元好きの俺にとっては喜ばしいシチュエーションであるはずなのだが、なぜか喜べない状況であった。

 見た目はそこそこ良いと言えば良いのだろうが、今の所、印象、性格、口調、全てが受け入れ難いと判断された!

 俺がだんだん尻にしかれて奴隷のような生活を送らざるを得なくなるのが、目に見えている状況であった!


「女の過去を詮索するとは……卓磨、モテないだろう。さては童貞だな? 目の前にいる女に対して気の利いた言葉の一つも掛けれないなど、程度が知れてるぞ。恥を知れ、恥を」


 冷たい視線で、かつ厳しい口調で汚いものでも見るようにそう言い放つ。

 図星である。まごうことなき図星であり、俺は言葉を失う状況であった。


「くっ! くそおおおおおおお!」


 年齢イコールって奴だ。てか、まだ高二なんだからそう言う奴だって腐るほどいるだろっ。

 と思いつつも、反論できる気概も無く布団に包まる。情けない状況であった……。


 ドンッ!!


『うっせーよ!!! ボケ!』


 隣の部屋から燕の怒号と壁ドンが聞こえる。家の壁はそこそこ厚いはずだが、俺の叫び声が突き抜けてしまったようである。


 一瞬、室内が静まり返る。影姫も一瞬叩かれた壁の方に視線を移したが、すぐにこちらに向き直り、一瞥しながら嘲笑を浮かべている。


「では、私も大人しくする為に寝るとしよう。おやすみ、卓磨君。同じ部屋に住む仲だ、喧嘩はもう止めようじゃぁないか」


 フッっとさげすむような笑い声が漏れでて聞こえたような気がした。

 カチッと電燈の紐を引っ張る音が聞こえ、押入れがピシャりと閉まる音がする。

 押入れ内に電灯まで点いてんのかよ。

 押入れで寝るとか何処のネコ型ロボットだよ……。


 この先、俺はどうすれば……。きっと少しずつ俺の聖域は影姫に侵食され、いずれ俺は部屋を追い出されるだろうと予測された……。いっその事、俺から庭にある倉にでも引っ越してやろうかと考えた……。

 どちらにせよ、今までの生活を送る事はできない状況なのか……グググヌゥ。


 震えながら眠る状況であった……。


 部屋の静けさの中で、彼女の言動に俺は困惑と屈辱が混じる複雑な感情を抱き、理解できない不安が胸に残った。

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