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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-29-5.電池【霧竜守影姫】

「どうした、何か……」


 スマホの受話ボタンをスライドして私がそう言うと、電話の相手は相当焦っているのか、私の声を遮り返事を返してきた。


『何かじゃないよ! ずっとかけてたのになかなか……! それより影姫! 今、貴駒峠でっ……屍霊に襲われてるんだ! なんとか……うわっ』


 そう言う卓磨の声の直後にガンッっという衝撃音。

 何かの衝撃を受けてスマホを手放し落としてしまったのだろうか。


「お、おい! 大丈夫か!? どういう事だ!? 卓磨、博物館に行ってたんじゃなかったのか!?」


『はぁ、はぁ……行ってた、行ってたんだよ! でも、貴駒峠が通り道で……俺もここ通るって知らなかったんだよ! 行きは大丈夫だったから帰りも大丈夫だと思ってたんだが、スピードも出てないのにいきなり襲ってきたんだ!』


 スマホを拾うのに慌てたのか、微妙に息が切れている。よほど切迫した状況らしい。


「どっちが襲ってきたんだ!? ババアか!? ライダーか!?」


『どっちもだよ! しかももう一匹変な屍霊がいる! 変なでかい顔したオッサンみたいなやつが……! バスに貼り付いててっ! それに何かトンネルも変なんだ! 走れど走れど出口が見えてこない!』


 もう、屍霊の空間に囚われてしまっているのか?

 しかし、もう一匹だと……?

 まさか……。


 ……ミスだ。私のミスだ。卓磨のその話を聞いて、瞬時に理解した。完全に見誤っていた。地蔵だから安心、地蔵は助けてくれる存在であると言う固定概念に囚われていた。あの時少し感じた違和感を、皆に伝えておくべきだった。


 恐らく、あの急カーブで死んだ人間の積もり積もった負の念と魂を吸い、付近に出没し始めた屍霊共の瘴気も相まって、人々の信心を失った地蔵が妖怪化したのだ。しかも悪い方の妖怪だ。聞いた状況から察するに、バスに乗っている人間の魂を喰おうとしているというところか。


「卓磨、その三匹目は屍霊じゃぁない! いわゆる世間一般で言われる妖怪という部類の奴だ! 人の成れの果てじゃぁない! すまん、私が軽く見ていたばかりに……っ。クソッ!」


 横を見ると、蓮美の表情も険しくなっている。私の会話を聞いて状況を理解したのだろう。


『妖怪!? そんなもんいんのかよ!? 俺、どうしたらいいんだ!? 影姫、峠の近くにいるんだろ!? 何とかこっちに来れないのか!?』


 頭が混乱しているのか、質問攻めである。

 とりあえず一刻も早く卓磨の下へと向かうしかない。


「わかった、急いでそっちに行くから何とか持ちこたえてくれ! 恐らく車なら十分とかからない場所だ、それまでいけるか!? 月紅石は持っているんだろう!?」


『それが、月紅石はうんともす……』


 そこで卓磨の言葉は途切れて聞こえなくなってしまった。切れた電話に不安が胸を過ぎる。


「おい、卓磨! どうした!?」


 一向に返事がない。耳からスマホを離して画面を見ると、大きな電池のマークが表示されていた。これはなんだ? 屍霊に妨害されているのか?


「影姉! それ、電池切れ! 充電切れてるよ!」


 横から覗き込んできた燕が慌てて私に指摘する。


「充電だと!? この薄い機械に電池が入っているのか!? くそっ、充電している暇などないぞ! 電池を買わねば! この薄さだとボタン電池か!?」


「何アホな事を言ってんのよ! 何で動いてると思ってたの! それより、陣野先輩が屍霊に襲われてんでしょ! 貴駒峠でいいんだよね!? 立和田呼び戻すからちょっと待ってなって!」


 蓮美は自分のスマホを取り出すと素早く操作し立和田に連絡を取る。


「立和田は追い返したんだろう!? 間に合うのか!?」


「大丈夫だって。普通護衛なら追い返されても近くで隠れながら見守ってるもんよ。私が鳴らしたらすぐさま飛び出て来るに決まってるからっ。それよりとりあえずこの建物から出ましょ。すぐに出発しないと、間に合わなかったら取り返しがつかないからっ」


「そ、そうだな。燕、とりあえず建物を出よう」


「う、うん」


 スマホ片手に駆け出す蓮美に付いて私達も走り出す。しかしこのままでは燕まで連れて行ってしまう事になってしまう。どうすればいいのだ。

 しかし、何としてでも間に合わせねば……くっ!

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