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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-29-2.卓球【霧竜守影姫】

「ハァ、ハァ、なかなかやるわね……とても初心者とは思えないわ……」


 私達は今、スイーツショップでスイーツを堪能し終えて、食後の運動がてらに近くにあった施設で卓球をしている。

 蓮美は学校の体育の時間にやった事があるという事で若干の経験者らしく、私を打ち負かして優位に立とうとしていた様だが、それは甘い考えだ。私とて動体視力にはいささか自信がある。この程度の球を打ち返せないとでも思ったのか。


「お前もな」


 とは言っても、私が初心者と言うのは嘘だ。朧気にしか覚えていないが、昔この球技を誰かに教わったと言う記憶がる。初心者のフリをして私こそが優位な立場に立ってやる。そう言う算段だ。


 やった事はあると言っても二人ともルールがよく分かっていなかったので、とりあえず十点先制で取った方が勝ちと言うことにしたのだが、相手もなかなかやるようで、現在は九対九になってしまった。


 しかし、周りを見るといつの間にか人だかりが出来ている。激しい応酬に魅せられ集まってしまったか。私としては人だかりはあまり好きではないので、ここで勝負を決めてさっさと立ち去りたい所だ。だが、サーブ権は今向こうにある。何としてでもギリギリに打ち返して勝ちを収めて格好よく立ち去りたい。


影姉かげねぇも、蓮実さんも頑張って。あと一点だよっ」


 燕が見守る中、二人の意識が蓮美の持つピンポン球へと集中する。

 ラケットを構える相手の姿には、微塵の隙も見当たらない。どこだ、どこに打って来るんだ。

 どこだ。右か、左か、ネットギリギリを狙ってくるか。それともド真ん中直球か。


「行くよっ!」


 掛け声と共に、蓮美の目が一瞬輝きを増す。輝きを増すといっても比喩的な表現ではない。まさしく光っているのだ。

 それは、赤マントと対峙した時に見たあの目。鬼の力を出した時の目である。


 こいつ、ここで鬼の力を……! 何て奴だ! そこまでして私に勝ちたいのか!


 放たれた球は、その力に耐えられず形を歪めながらこちらへと高速で飛び跳ねてきた。だが、軌道は的確で私の苦手な位置を突いている。しかし、ここで空ぶるわけには行かない。瞬時にその軌道を捉え、弾き返そうと身を翻す。先程までよりも意識を集中せねば、小さなミスが命取りとなってしまう。ここで負けては燕の姉としての面目が……っ。


「やらせん……っ!」


 打ち返そうとした、まさにその時であった。燕に預けていた私のスマホの着信音が聞こえてきた。それに一瞬の気を取られ、勢いよく振ったラケットの角に球が当たり、あらぬ方向へと飛んで行ってしまった。


 囲いのネットを飛び越え遠くに消えるピンポン球。それを見つめ、目で追う周辺一同。辺りを包む静寂。ゆっくりと感じる時間の流れを身に受けつつ、どこからか『負け』という一言を心の奥に突きつけられる。


 遠くからカツカツカツとピンポン球が床を転げ飛ぶ音が聞こえてきた。


「ダッシャーオラー!! やーったー! 私の勝ち! 勝ーちっ! いえーい!」


 ハッとして聞こえてきた声に視線を向けると、勝負が終わり散っていく観戦者達と、大袈裟にはしゃぐ蓮美の姿が目に入ってきた。


 納得できん、納得できるかこんな事!


「……おい、蓮美……貴様! 今鬼の力を使っただろう! 反則だぞ!! 私は何の力も使わずに、この身一つで相手していたのだぞ!」


「え? なにそれー? ちょっとそんな厨二チックな事言われてもわかんなーい。私が鬼強いってのは分かるけどー、鬼の力とかー。ねー、燕ちゃーん」


 いけしゃあしゃあと、とぼけた顔で両手を翻す蓮美に、燕も苦笑を浮かべている。

 燕はお前の力など既に知っているのだぞ。なのに、この……うぐぐ。


「こ、こいつ……トボケよって……私の目をごまかせると思っているのか!?」


「はーん、何にせよ、勝ちは勝ちでしょー。へへー。ジュース一本奢りねー♪」


「くっ、もう一回……」


 そう言ってピンポン球を手に取ろうとカゴに近寄った時、燕が小走りでこちらに近寄ってきた。


「影姉、電話……鳴ってるんだけど」


 燕がなぜか申し訳なさそうに私のスマホを差し出してきた。そういえば怒りでスマホの事を忘れていた。ずっと鳴り続けていたようだが、誰だろうか。急ぎの用事なのか。


「……次は絶対勝つからな! 覚えておけよ!」


「はいはい、何回でもやってあげるよー」


 燕からスマホを受け取ると、画面には七瀬刑事の名前が表示されていた。

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